学部・研究科 | 総合政策学部 |
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授業科目名 | 事例研究(演習)Ⅰ |
学期名称 | 前期 |
配当年次 | 3年次配当 |
単位数 | 2単位 |
授業担当教員 | 横山 陸 |
教員カナ氏名 | ヨコヤマ リク |
履修条件 | 1.担当教員の講義科目である「特殊講義(倫理学)」、「特殊講義(哲学)」、「特殊講義(ヨーロッパ思想)」、「特殊講義(社会思想)」をすべて単位修得しているか、平行して必ず履修すること。 2.授業時間とは別に、課外学習(東京かその近郊)やゲスト・スピカーによるレクチャーを実施する場合がある(詳細はそのつど実施1ヶ月前までに連絡する)。サークル・アルバイトよりも優先して参加すること。 |
科目の目的・到達目標 | 学部のディプロマ・ポリシーに基づいて、以下を科目の目的とする。すなわち、ヨーロッパの社会・文化政策とその問題を思想・倫理の観点から考察することを通じて、「さまざまな観点から社会現象を解明する能力」、さらに「多様な異文化を理解・受容できる包容力」の習得をめざす。そのために、以下の二点を到達目標に定める。 (1)思想・倫理に関する抽象的な理論を(批判的に)理解できる。 (2)理論を応用して、ヨーロッパの社会・文化政策とその問題を分析できる。 |
授業の概要 | 本ゼミでは、ヨーロッパ(主に英仏独を中心とした西欧・EU圏)の社会・文化政策に、思想・倫理の観点からアプローチする。2020年度は「多様性」と「寛容」をテーマに考えていきたい。 「イギリス人」、「フランス人」、「ドイツ人」と言われて、あなたは、どのような「人」をイメージするだろうか。日本ではいまだに「金髪白人」のイメージが強いかもしれないが、実際にはロンドンでもパリでもベルリンでも、いまや人口の半数近くが非白人系(いわゆる移民系・旧植民地系)の住民である(さらにロシア、東欧、南欧の移民系住民も多い)。彼らの大半はもちろん「イギリス人」であり、「フランス人」であり、「ドイツ人」である。宗教・文化の多様化された社会、それが現在のヨーロッパである。もちろん、宗教・文化の多様性はヨーロッパの専売特許ではなく、アジアのさまざまな地域にも見ることができる。しかしヨーロッパ社会の特徴は、多様性を「社会の多様性」としてだけでなく、「個人の多様性」としても考える点にある。個人はどのような宗教・文化に属していようとも、個人として尊重されなければならない。こうした「個人の多様性」は、宗教・文化の多様性だけでなく、ジェンダー・セクシャリティの多様性をも意味する。個人は女性であろうとも、性的マイノリティであろうとも、やはり個人として尊重されなければならない。事実、ヨーロッパ社会は、仕事や家庭における男女の平等、中絶の合法化、事実婚や同性婚の承認などの問題にも長らく取り組んできた。ところが、2011年のアラブの春とシリア内戦を契機に発生したアラブ・アフリカ地域からの大量難民という問題のなかで(改めて)顕在化したのは、宗教・文化の多様性とジェンダー・セクシャリティの多様性が両立しないという事態である。宗教的信条や文化的習慣は、ときに女性や性的マイノリティの人びとの個人の尊厳・権利を無視する。他方でこうした問題にかこつけて、特定の宗教・文化を狙い撃ちしたヘイト・スピーチが(個人の思想の自由や多様性として)社会に吹き荒れている。いったい多様性と個人の尊厳・権利とは、どこまで両立するのだろうか。私たちは多様性にどこまで「寛容」であるべきなのだろうか。こうした観点から、ヨーロッパの社会・文化政策とその問題について考えていきたい。 ゼミは担当教員の講義科目の発展と考えて欲しい。2020年度は「多様性」に関しては「特殊講義(倫理学)」、「特殊講義(哲学)」で、「寛容」に関しては「特殊講義(ヨーロッパ思想)」、「特殊講義(社会思想)」で、それぞれ基礎知識をレクチャーする予定である。(したがって講義科目の履修が必須となる。)ゼミでは、これらの講義で扱った内容をさらに掘り下げる。つまり関連する文献を実際に読んでリサーチし、プレゼンテーションし、ディスカッションし、レポートを書く。(したがって、授業時間外にも準備のための時間が必要となる。) ゼミは文献講読と個人発表の二本立てで行う。文献講読について、2年次ゼミ(専門演習)では、前期に「尊厳」論の古典テクストであるカントの『人倫の形而上学の基礎づけ』を読み、さらに現代の「寛容」論の第一人者であるライナー・フォアストの簡単な論文を読む。3年次ゼミ(事例研究)では、前期に「寛容」論の古典テクストであるヴォルテールの『寛容論』を読み、さらにやはりフォアストの簡単な論文を読む。後期は、2年次ゼミ、3年次ゼミともにクリスチャン・ヨプケの『ヴェール論争』を読む。同書は、ヨーロッパにおけるイスラム女性のヘッド・スカーフ着用の是非という観点から、英仏独の移民政策を論じた良書である。なお4年次ゼミ(卒業論文)では、前期にジョン・ロックの短編『寛容についての手紙』を読み、さらにヨプケの『ヴェール論争』を読む。後期は特定のテクストを講読するのではなく、毎回、学生が卒業論文執筆のために読んでいるテキストの一部を取り上げて、全員で議論する(どのテクストを取り上げるかは学生に任せる)。なお、講読のテクストは毎年度、変更する予定。 |
授業計画 | 授業内容としては以下を予定しているが、参加者の人数や関心・理解度に応じて、内容や進捗度は適宜変更する。 第01回 オリエンテーション(寛容について) 第02回 文献講読①(宗教改革と不寛容) 第03回 文献講読②(寛容は危険か?) 第04回 文献講読③(古代社会における寛容) 第05回 文献講読④(ユダヤ教と寛容) 第06回 文献講読⑤(キリスト教と寛容) 第07回 学生の中間プレゼンテーション① 第08回 学生の中間プレゼンテーション② 第09回 文献講読⑥(不寛容は人間の権利か?) 第10回 文献講読⑦(寛容と徳) 第11回 文献講読⑧(現代の寛容論) 第12回 学生の最終プレゼンテーション① 第13回 学生の最終プレゼンテーション② 第14回 学生の最終プレゼンテーション③ |
評価方法 | 平常点(リサーチ・プレゼンテーション、デスカッションへの貢献度、小レポートなどの課題提出を含む)(約50%)とレポート(約50%)。なおゼミ形式の授業なので、理由の公私に関わらず、欠席は3回までとする(もちろん個別の事情について相談には応じるが、証明書を出せば欠席を無条件に認める、ということはしない)。欠席が3回を超える者、課題提出が不良の者、期末レポートを未提出の者は、いずれもE判定(不可)とする。なお4年次後期はレポートの代わりに卒業論文を成績評価の対象とする。 |
テキスト・参考文献等 | ◎テキスト ・2年次(専門演習):イマヌエル・カント『道徳形而上学の基礎づけ』(中山元訳、光文社古典新訳文庫版)、光文社、2012年。 ・3年次(事例研究):ヴォルテール『寛容論』(斉藤悦則訳、光文社古典新訳文庫版)、光文社、2016年。 ・4年次(卒業論文):ジョン・ロック『寛容についての手紙』(加藤節・李静和訳、岩波文庫)、岩波書店、2018年。 ※上記のカント、ヴォルテール、ロックの著作については、翻訳はいくつか存在するが、必ず上記のヴァージョンを手に入れること。 ・2〜4年次共通:クリスチャン・ヨプケ『ヴェール論争:リベラリズムの試練』(伊藤豊他訳)、法政大学出版局、2015年。 ・ライナー・フォアストの論文については、教員が翻訳を用意する。 ◎参考文献 ・戸田山和久『新版:論文の教室—レポートから卒論まで』(NHK BOOKS)、NHK出版、2012年(レポートの書き方についての入門書)。 ・福島清紀『寛容とは何か—思想的考察』、工作社、2018年(ヨーロッパにおける「寛容」思想に関する概説書)。 ・加藤秀一『はじめてのジェンダー論』、有斐閣、2017年(ジェンダー研究の入門書)。 ・内藤正典『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』、集英社、2019年(移民・難民問題に関する入門書)。 ・滝澤三郎・山田満編『難民を知るための基礎知識』、明石書店、2017年(近年の難民問題に関する概説書)。 ・内藤正典『ヨーロッパとイスラーム—共生は可能か』(岩波新書)、岩波書店、2004年(ヨーロッパのイスラム系移民問題の概説書)。 ・宮島喬・佐藤成基編『包摂・共生の政治か、排除の政治か—移民・難民と向き合うヨーロッパ』、明石書店、2019年(ヨーロッパの移民・難民政策に関する概説書)。 |
授業外の学習活動 | 文献講読に関しては、授業時間外に毎回、簡単な小レポート(A4で1〜2枚程度)を作成し、授業前日の午後7時までに担当教員にメールで提出することを義務づける。講読箇所(30〜40頁)の要約と自らの問題提起を小レポートの課題とする。リサーチ、プレゼンテーション、レポート執筆に関しては、各人のテーマにしたがって、教員が個別に指示した文献(書籍)を読むことを求める。なお長期休暇中の合宿については、学生の意見を聞きながら、実施の有無、日時を決めたい。 |