シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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【通教 短期】刑法総論 | 2024 | その他 | 在学生サイトの各スクーリングのページをご確認ください。 | 通信教育課程 | 只木 誠 | 1年次配当 |
科目ナンバー
JD-CR1-104L
履修条件・関連科目等
履修条件:通信教育課程の学生
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
現在の刑法学ほど理論的対立の激しい学問はないといえよう。というのも、解釈の結果が生命や自由というきわめて重大な個人の権利の与奪に直接に結びついているからである。また、学説の対立の顕著化に加えて、今日の理論刑法学は益々緻密なものとなり、細分化しており、他方、社会における紛争の複雑化によって刑法の果たす役割は増大し、刑法学への期待も高まっている。
刑法総論の解釈学は非常に体系立てられた学問であり、各教科書の記述はその体系に沿ったものとなっている。そのため、学習においては、刑法の基礎→構成要件論→違法論→責任論→未遂論→共犯論→罪数論、といったように段階的に知識を積み重ねていくことが求められる。したがって、まずはじめに刑法の意義と機能、刑法の諸原則などを概観することを通して履修者の皆さんそれぞれにおいて「刑法」あるいは「刑事法」というものをイメージできるようにしていきたいと考えており、その後、違法論、責任論といった解釈上の重要問題や、また、未遂、共犯、罪数といった、いわば犯罪論の応用問題へと進んでいく予定である。
履修者の皆さんにおいては、教科書の全体を通読し、刑法総論を俯瞰できるようになることが重要であろう。読みこなすことになかなか難渋する箇所もあるかと思われるが、何度か回を重ねて全体を通して読んでいくうちに、刑法の体系についての全体的な理解が増し、着実に身についていくはずである。授業での学習とこのような自己学習を通して、最終的には、判例・学説の背後にある刑法の役割についての基本的な考え方の相違についても知り、併せて、紛争解決手段としての刑法の役割とその限界、解釈の限界、立法論などを考えていただけるようになること、あるいは、刑法上の論点をさぐり、これをどのように解決すべきかを考える、いわゆるリーガルマインドの涵養に役立たせていただくことが本授業の目的である。
科目目的
この授業では、犯罪の基本的な成立要件を考える。すなわち、刑法典第一編総則に規定される犯罪成立要件全体に共通する項目(構成要件該当性、違法性、有責性、未遂、共犯、罪数、刑罰論)のなかで基本的かつ必須であるテーマについて、その意義と問題点を学説上の争点、判例・立法例を交えつつ分かりやすく明らかにし、履修者各自が体系的に刑法総論の輪郭をとらえることをねらいとする。
到達目標
授業においては、上記に掲げた科目目的のため、犯罪の成立要件である「構成要件該当性」「違法性」「有責性」、また、「未遂」「共犯」「罪数」といった重要項目のそれぞれについて、受講者において具体的に把握し十分に理解し、そして、最終的には、刑法総論における諸問題について考察して刑法上の問題の論点を見つけ出し、それをどのように解決すべきかという「法的思考」いわゆるリーガルマインドの涵養につなげることを目指したい。
授業計画と内容
1.〈刑法の基礎1〉刑法の意義・機能
-事後強盗致傷罪(窃盗犯人が被害者に暴行を加える罪)から刑事法をみる。
2.〈刑法の基礎2〉刑法理論史と新旧学派の争い
-AはBに殺人を唆したがBは断った。この事例で、学説の相違により殺人未遂罪と無罪とに結論が分かれる背景はどこにあるのか。
3.〈刑法の基礎3〉罪刑法定主義の意義と派生原理
-なぜ、情報を盗んでも窃盗にならないのか。患者の秘密を暴露しても、医者ではなく看護師なら処罰されないのはなぜか。
4.〈刑法の基礎4〉罪刑法定主義の派生原理-「交通秩序の維持」「淫行」という文言を内容とする刑罰規定は憲法に違反するか。
5.〈行為論・構成要件論1〉犯罪の意義と種類、行為論、構成要件論、犯罪主体、構成要件該当性
-「法人」は犯罪を行いうるか。犯罪の成立要件は何か。
6.〈行為論・構成要件論2〉真正・不真正不作為犯
-「何もしないこと」によってなぜ、殺人罪や放火罪や詐欺罪となるのか。
7.〈行為論・構成要件論3〉因果関係論
-AはBに軽い傷害を負わせたが、たまたまBは心臓に重篤な疾患を有していたので死亡したという場合、一般人がその罹患の事実を知り得たか否かは、Aの行為とBの死亡との間の因果関係の判断に影響を及ぼすか。殴られた被害者が病院で治療中、火災で死亡した場合、なぜ加害者は傷害致死罪で処罰されるのか。
8.〈行為論・構成要件論4〉因果関係論の諸問題、構成要件論のまとめ
-致死量の1/2の毒薬を入れると殺人既遂で、致死量の毒を入れると殺人未遂?
9.〈違法論1〉違法性の意義と本質、可罰的違法性
-泥酔者や子どもから暴行をうけた場合、これに対して正当防衛は許されないのか。隣の人の鉛筆の借用は窃盗か。
10.〈違法論2〉行為無価値、結果無価値をめぐる刑法学の対立
-賭博、近親相姦、売春、ポルノ等は刑法で規制すべきか。
11.〈違法論3〉正当行為(被害者の承諾、安楽死・尊厳死、治療行為)
-殺人、傷害、逮捕監禁、賭博が許される場合とは、いかなる場合か。『ヴェニスの商人』で、シャイロックの手にする証文の効力は?
12.〈違法論4〉正当防衛(過剰防衛、誤想防衛)
-リンゴ泥棒の子どもに向けて銃を発射した事例。強盗と誤認して暴行を加えた場合、罪とはならない?
13.〈違法論5〉緊急避難(過剰避難、誤想避難)
-海で漂流し一片の板にしがみついている漂流者がその板を頼ろうとする他の漂流者をつき放すことは許されるか。ミリオネット号事件を考える。
14.〈責任論1〉責任主義、責任の本質、責任能力、少年法、原因において自由な行為
-泥酔状態での行為は無罪か。なぜ、子どもの犯罪は宥恕され、子どもは刑法上厚く保護されるのか。
15.〈責任論2〉故意論、故意の意義と種類(概括的故意・未必の故意)
-フルスピードの車で人混みの中を走行した場合には殺人未遂か、無罪か。「何かやばいもの」という認識において覚せい剤所持罪は成立するか。
16.〈責任論3〉錯誤論(1)事実の錯誤(a)
-人違い殺人と手元違い殺人は、結果的に同じか、異なるか。
17.〈責任論4〉錯誤論(2)事実の錯誤(b)
-1個の殺人の故意で2人を殺害した場合、故意は1個しかないのに、なぜ、2個の殺人罪が成立するのか。死者を遺棄しても処罰されるのに、生死を誤認して親を遺棄した場合は、なぜ処罰されないのか。
18.〈責任論5〉錯誤論(3)法律の錯誤
-「たぬき・むじな」「もま・むささび」難事件とは何か。弁護士や警察の助言を信じて、許されていると思って行為したにもかかわらずなぜ犯罪となるのか。
19.〈責任論6〉過失論、過失の意義と種類(新過失論、新・新過失論)
-『ブラック・ジャック』が手術に失敗したら、やはり過失犯か。
20.〈未遂論1〉予備・未遂・既遂の区別、未遂の基準、予備罪の諸問題
-玄関前で強盗を思いとどまったときの方が、家の中で被害者に暴行・脅迫を加えた後に思い直して強盗をやめたときより、なぜに重く処罰されるのか。
21.〈未遂論2〉不能犯の意義と要件、未遂犯のまとめ
-砂糖を飲ませて人を殺そうとした場合、あるいは、空のピストルで人を撃った場合には処罰されるか。
22.〈未遂論3〉中止犯の意義と要件
-泥棒に入ったところ、あまりにわずかの現金しかなかったので、明日もう一度出直そうとした場合、中止犯は成立するか。1発の銃弾で殺害しようとした場合よりも、数発で殺害しようとした場合の方が、なぜ行為者に有利になるのか。
23.〈共犯論1〉共犯の意義、間接正犯
-医者が毒入り注射液を看護師に渡し、看護師はこれに気づいていながら注射したため患者は死亡した。いずれが殺人犯か。Aは、12歳の子どもに強いて窃盗を働かせた。正犯はどちらに成立するか。
24.〈共犯論2〉共同正犯
-強盗の共謀にもとづいて、Aは実行し、Bは見張りを行い、Cは自宅で待機した。この場合、なぜ、それぞれの罪責は同じくなるのか。過失の共同正犯は認められるか。
25.〈共犯論3〉狭義の共犯
-警察と打ち合わせの上でAはBに殺人を教唆したところ、Bは実行の着手と同時に逮捕されたという場合(おとり捜査)、Aの罪責はどうか。
26.〈共犯論4〉共犯の諸問題(共犯と身分)、共犯論のまとめ
-公務員である夫と共謀のうえ賄賂を収受した妻は有罪か。業務上の占有者と非占有者とが一緒に横領した場合、それぞれの罪責はどのようになるか。
27.〈共犯論5〉共犯の諸問題(不作為の共犯、共犯からの離脱)
-子どもが殺人を犯した際、かたわらにいてそれを止めなかった親の罪責はどうか。
28.〈罪数論・刑罰論〉犯罪の個数とその基準、一罪と数罪、刑罰の本質と種類
-1発の弾で2人を殺害した場合の犯罪の数は?
授業時間外の学修の内容
その他
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
よりよい理解のためには、刑法総論に関するいずれかの教科書・参考書を一読しておいてあれば、なお、理解の助けに資すると思われる。
本科目は総論の学習ではあるが、あわせて、各論についての知識もあれば、その方がより望ましいであろう。その意味で、総論の学習と併行して、ときに刑法各論の殺人罪や傷害罪、窃盗罪などの財産罪についても教科書を広げてみていただくと、刑法総論の理解に役立つと思われる。なお、刑法各論の教科書高橋則夫『刑法各論』[第4版](成文堂)及び只木誠『コンパクト刑法各論』(新世社)もあわせて読んでみていただきたい。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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その他 | 100 | スクーリング試験または科目試験により最終評価する。 |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
その他
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
【通信教育課程はなし】
アクティブ・ラーニングの実施内容
実施しない
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
【通信教育課程はなし】
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
【通信教育課程はなし】
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
■スクーリングで使用する教材
レジュメ・パワーポイント
通信教育課程 在学生サイト 教科書一覧を参照
https://sites.google.com/g.chuo-u.ac.jp/tsukyo-current/textbook?authuser=0
■推薦図書
只木 誠『コンパクト刑法総論(第2版)』(2022年)新世社
只木 誠『コンパクト刑法各論』(2022年)新世社
只木 誠他『刑法ポケット判例集』(2019年)弘文堂
只木 誠編著『刑法演習ノート 刑法を楽しむ21問』[第3版](2022年)弘文堂
佐伯仁志・橋爪隆『刑法判例百選I総論』[第8版](2020年)有斐閣
その他特記事項
【通信教育課程はなし】