シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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法学特講1 国際法と紛争解決/国際紛争解決法/国際政治特講1 国際法と紛争解決 | 2024 | 春学期 | 火2 | 法学部 | 宮野 洋一 | ミヤノ ヒロカズ | 3・4年次配当 | 2 |
科目ナンバー
JU-LA3-006S,JU-IL3-006L,JU-IL3-009S
履修条件・関連科目等
国際法についての一定の知識を前提にしていますので、「国際法総論」の講義を受講するか、少なくとも国際法の簡単な概説書程度は読んでおいて下さい。また法に限らずいろいろな分野の紛争解決にかかわることがらに、常に興味のアンテナをはっておくといっそう興味深いものになるでしょう。
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
・国際紛争というと戦争、国際紛争への対処方法としては国連か国際司法裁判所しか頭にうかばないひともいるようですが、この講義では、国際関係において、いかにいろいろな種類の紛争が存在し、それへの対処方法も今日いかに多様化しているか(※)を、具体的な様々なケースを素材にみてゆきます。と同時に、そもそも「紛争」とはなにか、それを「解決」するとはどういうことか。紛争をどのように「処理」することがその「解決」にむすびつくか、といった原理的な理解も多面的に検討してゆきます。
紛争の解決はなにも「法」の専売特許ではなく、実にいろいろな手法や要素がかかわってきます。その意味で、この講義では、国際法をベースにしつつも、積極的に隣接関連諸分野の成果もとりこみつつ、全体として紛争解決学的なものをめざしています。本講義がめざすような体系はまだどこにも確立されていないので、この講義は整然とした体系を提示するのではなく、むしろ毎回のやりとりや最後のレポートも含めた授業全体が発見学習的な性質のものになるでしょう。
※たとえば、Project on International Courts and Tribunals(PICT) 作成の紛争処理機関の表(PICTのHP→Materilas & Publications→ Synoptic Chart →Version3)を参照。
科目目的
国際紛争の「処理・解決」のためにどのような制度・手続があるかを俯瞰し、さらに紛争の解決に関するさまざまな考え方を紹介し、紛争に対してどのように対処すればよいか、紛争処理制度や考え方の選択・制度設計・制度運用・制度評価のための基礎を提供する。全体として必ずしも国際法に限定せずに、国際紛争解決学的方向をめざします。
到達目標
国際紛争「解決」について、その着地点(形態・質・満足度)とそこに至る過程(手法・制度・手続き)、それらの背景にある考え方・発想、についての基本的概要を理解し、それをベースに各自の設定による紛争解決についてのレポートを執筆する。
授業計画と内容
第1回 オリエンテーション:本講義の視角-考え方からみた紛争の処理・解決
国際紛争の「処理」と「解決」/白黒決着・棚上げ・妥協とトランセンド(ガルトゥング)
Part.1 国際紛争処理の手続き・制度からみた紛争の処理・解決
第2回 国際紛争処理手続-法的処理の原型と概観(PICT Chart)
第3回 仲介・居中調停1-環境調停(サスカインド)
第4回 仲介・居中調停2-(スリランカ内戦とノルウェーの仲介)、交渉・審査
第5回 裁判―仲裁裁判と司法裁判(ICJ) (例:ビーグル海峡事件、イラン人質事件、自由地帯事件)
Part2 国際紛争・問題の性質・類型からみた紛争処理のあり方
第6回 国際環境紛争・地球環境問題―紛争の処理/解決か、問題の解決か-環境条約の不遵守手続(NCP)
第7回 国際経済紛争1(貿易・通商)―GATT/WTOにおける紛争処理
第8回 国際経済紛争2(貿易・通商)―ICJ との比較
第9回 国際経済紛争3(投資紛争)
第10回 武力紛争1-集団的安全保障体制 と停戦監視型PKO
第11回 武力紛争2-PKOと平和構築(パートナーシップ国際平和活動)
第12回 武力紛争3-国際刑事裁判所(ICC)的アプローチ
第13回 構造的暴力に関わる紛争-南ア・真実と和解委員会(TRC)アプローチ
Part3 まとめ
第14回 総括:受講生のレポート発表と議論
授業時間外の学修の内容
授業終了後の課題提出
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
最低限、国際法のテキスト類の「紛争処理」の章に目を通しておくこと。
あとは、むしろ各回の授業後に、関連の参考文献でさらに理解を深めることを推奨する。
終了後、毎回Responによるリアクション提出を求めます。
その内容は全員でシェアします。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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レポート | 60 | 学期末に提出する紛争解決を主題にしたレポート |
平常点 | 40 | Responによる各回講義へのリアクション(8回以上の提出が単位認定の要件です。それ以下の場合は成績評価の対象としません。) |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
その他
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
各回の講義解説後(ただし講義内)の小グループに分かれての意見交換と、その全体でのシェア。
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
本講義には決まったテキストはありません。国際法の観点からの紛争処理の一応の全体像をつかみたい人には、ごく簡単には本講義担当者による
・宮野洋一「国際紛争処理」柳原ほか編『プラクティス国際法講義(第4版)』(信山社2023)第21章
より詳細には、以下のような翻訳書があります。
・メリルス(長谷川訳)『国際紛争処理概論(新版)』(成文堂2008)
国際法の立場から国際紛争処理制度を概観した世界的にも代表的な著作。原著第4版の邦訳。通読するのは楽ではありませんが、覚悟して読めば具体例も豊富でそれなりに興味深く読めるでしょう。ただし、本講義自体はこれに依拠するものではなく、配布資料・ビデオそして口頭の説明と質疑を中心にすすめることになります。尚、同書原著の初版、2版の訳も別タイトル『国際紛争の平和的解決』で、3版は同上タイトルで、翻訳があります)。
篠田英朗『紛争解決ってなんだろう』(ちくまプリマー新書,2021)は、本講義とかなり共通する点がありますが、著者の専門である「平和構築」に重点があるので、その意味で本講義を補完するものとなり、一読をおすすめします。
また、ラムズボサムほか(宮本貴世訳)『現代世界の紛争解決学:予防・介入・平和構築の理論と実践』(明石書店2009)は、武力紛争の解決を主たる対象としたいわゆるコンフリクト・レゾリューション研究の分野から、本講義に親和性のある素材を豊富に提供してくれます。
上杉・長谷川『紛争解決学入門』(大学教育出版,2016)も、よりコンパクトに同様の素材を提供しています。
参考文献 ①
▼国際法分野の文献
・古川照美「国際紛争処理法の展開」(=村瀬・奥脇・古川・田中『現代国際法の指標』(有斐閣1994)の第3部=pp.161-262.)
・家正治ほか『国際紛争と国際法』(嵯峨野書院2008)武力紛争・安全保障が中心
・国際法学会(編)『紛争の解決(日本と国際法の100年第9巻)』(三省堂、2001)
・メリルス(長谷川訳)『国際法の解剖』(敬文堂1984)
・小田滋『国際司法裁判所(増補版)』(日本評論社2011)
・杉原(編)『紛争解決の国際法(小田滋先生古希記念)』(三省堂1997)
・島田(編)『国際紛争の多様化と法的処理』(栗山・山田先生古稀記念論集:信山社出版2006)
・浅田・加藤・酒井(編)『国際裁判と現代国際法の展開』(三省堂,2014)
・杉原高嶺『国際司法裁判制度』(有斐閣1996)
・李禎之『国際裁判の動態』(信山社,2007)
・岩沢雄司『WTOの紛争処理』(三省堂1995)
*チェイズ&チェイズ(宮野・監訳)『国際法遵守の管理モデルー新しい主権のあり方』(中央大学出版部:日本比較法研究所翻訳叢書79, 2018)
・福永有夏『貿易紛争とWTO:ルールに基づく紛争解決の事例研究』(法律文化社,2022)WTOでの処理のあとどうなったかまでカバーされており、本講義の観点から特に有益。
・福永有夏『国際経済協定の遵守確保と紛争処理 : WTO紛争処理制度及び投資仲裁制度の意義と限界』(有斐閣,2013)
・小寺彰(編)『国際投資協定 仲裁による法的保護』(三省堂,2010)
・小寺彰・河合弘造(編)『エネルギー投資仲裁・実例研究 -- ISDSの実際』(有斐閣.2013)
・繁田泰宏ほか『ケースブック国際環境法』(東信堂,2020)
・小松・遠藤『国際マグロ裁判』(岩波新書、新赤810、2002)
・多谷千香子『戦争犯罪と法』(岩波書店2006)
・村瀬信也・洪恵子(編)『国際刑事裁判所(第2版)』(東信堂,2014)
・松井芳郎『国際法学者がよむ尖閣問題:紛争解決への展望を拓く』(日本評論社,2014)
▼隣接関連分野の文献
・ガルトゥング(藤田/奥本訳)『ガルトゥング紛争解決学入門』(法律文化社,2014)
・ガルトゥング(伊藤編/奥本訳)『平和的手段による紛争の転換』(平和文化2000)
・ガルトゥング(京都YWCAほーぽのぽの会訳)『平和を創る発想術:紛争から和解へ』(岩波ブックレットNo.603、2003)
・井上孝代『あの人と和解する:仲直りの心理学』(集英社新書 2005):心の葛藤も紛争。トランセンドの応用
・レビン小林久子(訳・編)『紛争管理論(新版)』(日本加除出版,2009)
・廣田尚久『紛争解決学(新版)』(信山社、2002):弁護士実務経験からの洞察の体系化の試み
・吉田勇『紛争解決のあり方を考える』(モラロジー研究所,2011)
・千葉正士『法と紛争』(三省堂1980):法社会学的知見の集大成
・篠田英朗『平和構築と法の支配』(創文社、2003)
・篠田英朗『パートナーシップ国際平和活動:変動する国際社会と紛争解決』(勁草書房,2021)
・上杉勇司『変わり行く国連PKOと紛争解決:平和創造と平和構築をつなぐ』(明石書店、2004)
・上杉勇司『紛争地の歩き方―現場で考える和解への道』 (ちくま新書 ,2023)
・大芝・藤原・山田(編)『平和政策』(有斐閣、2006-10)
・鈴木基史『平和と安全保障』(東京大学出版会、2007)
・竹中千春『世界はなぜ仲良くできないの?:暴力の連鎖を解くために』(阪急コミュニケーションズ,2004)
・ミノウ(荒木・駒村訳)『復讐と赦しのあいだ:ジェノサイドと大規模暴力の後で歴史と向き合う』(信山社、2003)
・ヘイナー、P.B.(阿部利洋訳)『語りえぬ真実―真実委員会の挑戦』(平凡社2006)
・阿部利洋『紛争後社会と向き合う:南アフリカ真実和解委員会』(京都大学学術出版会2007)
・阿部利洋『真実委員会という選択:紛争後社会の再生のために』(岩波書店2008)
・朴裕河(佐藤久訳)『和解のために』(平凡社2006)
・岩下明裕(編)『領土という病』(北海道大学出版会,2014)
・岩下明裕『国境・誰がこの線を引いたのか』(北海道大学スラブ研究センタ- スラブ・ユ-ラシア叢書/北海道大学出版会、2006)
・岩下明裕『北方領土問題:4でも0でも、2でもなく』(中公新書2005)
・木村汎(編)『国際交渉学』(勁草書房1998)
・小島武司・伊藤眞(編)『裁判外紛争処理法(ADR)』(有斐閣、1998)各種ADRの概観
・小島武司『ADR・仲裁教室』(有斐閣、2001)ADRと仲裁の基本的思考が、教室風に楽しく学べる
・ロバーツ、サイモン(千葉監訳)『秩序と紛争:人類学的考察』(西田書店1982)人類学からの知見
・長谷川公一『社会学入門-紛争理解をとおして学ぶ社会学』(放送大学教育振興会1997)社会学
その他特記事項
講義で使用する資料等をmanabaにupすることがあるので適宜チェックしてください。
参考URL
http://www.pict-pcti.org/ 国際裁判プロジェクト(PICT)HP