シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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ドイツ文学演習A | 2024 | 前期 | 火3 | 文学研究科博士課程前期課程 | 高橋 慎也 | タカハシ シンヤ | 1年次配当 | 2 |
科目ナンバー
LG-LT5-101S
履修条件・関連科目等
ドイツ語読解の基礎力があること
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
テーマ:ウィーンのアヴァンギャルド演劇と大衆演劇との相互関連性①
内容:ウィーンの演劇文化には二つの潮流があります。ひとつは社会批判的なアヴァンギャルド演劇であり、もうひとつは娯楽性の強い大衆演劇です。換言すれば、ウィーンの演劇文化は「まじめな演劇(Ernstes Theater)」と「娯楽演劇(Unterhaltungstheater)」の両輪に支えられてきていると述べることができます。戦後ウィーンの演劇文化もまたアヴァンギャルド演劇と娯楽演劇によって国内外での注目を集めてきました。その代表的なジャンルはウィーン・アクショニズムから現在につらなるアヴァンギャルド演劇であり、ウィーンオペレッタから現在につらなるウィーン・ミュージカルです。
ウィーンとオーストリアの文化政策という観点から見ると、両者はこのふたつの演劇ジャンルを支援することによって「演劇都市ウィーン」ないし「音楽の都ウィーン」といったイメージを維持・促進しようとしている、と捉えることができます。特にエルフリーデ・イェリネクの舞台作品に代表されるアヴァンギャルド演劇、ミュージカル『エリザベート』に代表される娯楽演劇はウィーン演劇の国外でのイメージアアップに貢献しています。他方、オーストリア国内のスタッフだけでこうした演劇文化を維持・育成することは不可能となっており、イェリネク以降の著名な劇作家は見当たらず、ウィーン・ミュージカルの人気も衰退しつつあります。つまりウィーンの演劇文化は再び「黄昏のウィーン」の時期を迎えていると捉えることができます。
この授業ではこうしたウィーンの演劇文化の特徴を踏まえ、アヴァンギャルド演劇の代表作であるイェリネクの舞台作品と、娯楽演劇の代表作であるミュージカル『エリザベート』を対比しながらそれぞれの特徴を抽出し、比較分析してゆきます。分析の観点としては「アヴァンギャルド性とポピュラー性の演劇的な表現方法」に焦点を当てます。また作品のテーマ分析としては「死者との対話」に焦点を当てます。イェリネクの演劇テクストでは「犠牲者としての死者との対話」が表現され、特に男性支配の歴史の中で犠牲となった女性の死者との対話が重視されています。こうした特徴はミュージカル『エリザベート』にも共通しています。ただし表現方法は大きく異なり、イェリネクの演劇テクストは死者の残した先行作品をアイロニカルに引用・翻案するのに対し、ウィーン・ミュージカルの脚本は比較的分かりやすい口語体です。それに対応してイェリネクの舞台作品もまた多彩な引用を積み重ねた難解なポストドラマ演劇となっているのに対して、ウィーン・ミュージカルの舞台は相対的に分かりやすいものとなっています。
前期の授業ではイェリネク作/ニコラス・シュテーマン演出『ウルリケ・マリア・ステュアート』とミュージカル『エリザベート』を比較分析してゆきます。『ウルリケ・マリア・ステュアート』ではドイツ赤軍の女性幹部ウルリケ・マインホフとグドルン・エンスリンが、マリア・スチュアートとエリザベスI世とに重ねて表現されています。つまりエリザベス朝英国の女性抑圧・女性殺戮の歴史的時空間が、1970年代ドイツの時空間と重なる構造を持っているのです。この演劇テクストの先行作品としてイェリネクは、シラー作『メアリー・ステュアート』やドイツ赤軍幹部の手紙などを引用・翻案しています。ニコラス・シュテーマン演出の舞台上演ではロックバンドによる即興演奏や観客に水風船を投げつけるなどの即興劇が挿入され、娯楽性・喜劇性・悲劇性・政治性・芸術性がハイブリッド化したポストドラマ演劇となっています。
授業ではまず、ニコラス・シュテーマン演出の『ウルリケ・マリア・スチュアート』上演ビデオの主要場面を観劇し、その特徴について解説・意見交換することから始めます。次に、ミュージカル『エリザベート』について同じ分析を進めます。併せて『ウルリケ・マリア・スチュアート』とミュージカル『エリザベート』の演劇テクスト(ドイツ語)の主要部分を読解します。さらにそれぞれの舞台上演に関する劇評および成立背景について分析し意見交換を行います。
科目目的
・文学テクストについて分析し、意見交換を行い、研究発表する能力を養成する
・舞台芸術作品について分析し、意見交換を行い、研究発表する能力を養成する
・文学研究と演劇研究に関する一次文献と二次文献の調べかたを学ぶ
到達目標
・文学テクストについて分析し、意見交換を行い、研究発表する
・舞台芸術作品について分析し、意見交換を行い、研究発表する
・文学研究と演劇研究に関する一次文献と二次文献の調べて研究発表と論文執筆に活用する
授業計画と内容
1) 授業全体の紹介
2) テクスト分析①:イェリネク作の演劇テクスト『ウルリケ・マリア・スチュアート』の前半部全体
3) テクスト分析②:後半部全体
4) 上演分析①:シュテーマン演出の舞台版『ウルリケ・マリア・スチュアートト』の前半部全体
5) 上演分析②:同上 後半部全体
6) テクスト分析③:クンツェ作ミュージカル『エリザベート』の第1幕全体
7) テクスト分析④同上 第2幕全体
8) 上演分析③:クッパー演出ミュージカル『エリザベート』の第1幕全体
9) 上演分析④:同上 第2幕全体
10) テクスト分析⑤:『ウルリケ・マリア・スチュアート』開幕シーン
11) 上演分析⑤:同上
12) テクスト分析⑥:『ウルリケ・マリア・スチュアート』終幕シーン
13) 上演分析⑥:同上
14) 受講生による発表
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと/授業終了後の課題提出/その他
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
教材の舞台上演ビデオを視聴し、分析すること
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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レポート | 50 | 研究発表用の資料、ハンドアウト、発表原稿を作成し提出する |
平常点 | 50 | 教材のテクスト、舞台録画を分析し、意見交換を行い、ショートレポートとして簡潔にまとめる |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
ディスカッション、ディベート
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
テキスト・参考文献等
テキスト:
『ウルリケ・マリア・スチュア』とミュージカル『エリザベート』関連の教材をmanaba上で提供する。必要に応じて教材をコピーして配布する
参考文献
〇 Christopher B. Balme : The Cambridge Introduction to Theatre Studies (Cambridge Introductions to Literature) Cambridge University Press 2011
〇 Bruce McConachie 編: Theatre Histories: An Introduction Routledge; 3rd edition 2016
〇 Richard Schechner: Performance Studies: An Introduction Routledge; 4th edition 2020
〇 Erika Fischer=Lichte: Theaterwissenschaft: Eine Einführung in die Grundlagen des Fachs UTB GmbH 2009
日本語訳: 演劇学へのいざない―研究の基礎 (国書刊行会2013)