シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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ドイツ文学特殊研究A | 2024 | 前期 | 火5 | 文学研究科博士課程後期課程 | 高橋 慎也 | タカハシ シンヤ | 1年次配当 | 2 |
科目ナンバー
LG-LT6-101L
履修条件・関連科目等
ドイツ語の読解能力を有すること
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
エルフリーデ・イェリネクの演劇テクスト『ウルリーケ・マリア・スチュアート』と舞台上演における女性観、男性観、死者の想起
〇 『ウルリーケ・マリア・スチュアート』(Ulrike Maria Stuart、2006年)
演出家:ニコラス・シュテーマン Nicolas Stemann
イェリネクは通常の戯曲Dramaではなく、登場人物の設定やセリフ配分を明確には特定しない文体で現代社会を批判的に考察する演劇テクストTheatertextを執筆してきました。その執筆方法の特徴はピアノの即興演奏と同様に、ペンの走るに任せて一気に書き上げるというものです。演出家は、こうして成立した演劇テクトを独自の視点から切り取り、舞台作品に仕上げてゆきます。俳優はこの演劇テクストを時には即興劇を交えながら演じてゆきます。観客はこうして成立した舞台上演を独自の好みに応じて最後まで観劇したり、途中退席したりします。このような舞台上演は束の間性Flüchtigkeitや一回性Einmaligkeitを特徴とするので、いわゆる作品Werkという定義には当てはまりません。そこでこの種の上演は現代のドイツ演劇学ではポストドラマ演劇に分類され、その特徴としてはパフォーマンス性が指摘されています。
イェリネクの演劇テクストの登場人物の多くは、男性支配の歴史の中で死に追いやられた女性たちです。そのためにその演劇テクストと舞台上演の時空間は女性の死者を想起する「想起の時空間」となります。観客は女性の死者たちと対話しながら過去・現在・未来を批判的に検証・考察する行為に誘われます。これはベンヤミンが『歴史哲学テーゼ』で描いた「歴史の天使」のイメージと重なります。「過去からの風を羽根一杯に孕みながら、後ろ向きに未来へと流されてゆく天使」のイメージです。たとえば『ウルリーケ・マリア・スチュアート』ではドイツ赤軍の女性幹部ウルリーケ・マインホフとグードルン・エンスリンが、マリア・スチュアートとエリザベスI世とに重ねあわされて表現され、エリザベス朝英国の女性抑圧・女性殺戮の歴史的時空間が、1970年代ドイツの現代的時空間と重なって演劇テクストおよび舞台上演に成立します。ニコラス・シュテーマン演出の舞台上演ではロックバンドによる即興演奏や観客に水風船を投げつけるなどの即興劇が挿入され、娯楽性・喜劇性・悲劇性・政治性・芸術性がハイブリッド化したポストドラマ演劇となっています。
前期の授業ではまず、ニコラス・シュテーマン演出の『ウルリーケ・マリア・スチュアート』上演ビデオの主要場面を観劇し、その特徴について解説・意見交換することから始めます。次に、他の舞台上演作品について解説・意見交換をします。併せて『ウルリーケ・マリア・スチュアート』の演劇テクスト(ドイツ語)の主要部分を読解します。さらに舞台上演に関する劇評について解説・意見交換を行います。
科目目的
〇 イェリネクの舞台上演のポストドラマ演劇としての特徴を理解する
〇 イェリネクの演劇テクストの女性観、男性観、歴史の特徴を理解する
〇 イェリネクの演劇テクストと舞台上演における「想起の時空間」設定の特徴を理解する
到達目標
〇 イェリネクの舞台上演のポストドラマ演劇としての特徴を分析・発表する
〇 イェリネクの演劇テクストの女性観、男性観、歴史の特徴を分析・発表する
〇 イェリネクの演劇テクストと舞台上演における「想起の時空間」設定の特徴を分析・発表する
授業計画と内容
1) 授業全体の紹介
2) イェリネク作の演劇テクスト『ウルリーケ・マリア・スチュアート』の概要
3) シュテーマン演出の舞台版『ウルリーケ・マリア・スチュアート』の概要
4) テクスト分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』開幕シーン
5) 舞台分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』開幕シーン
6) テクスト分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』終幕シーン
7) 舞台分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』終幕シーン
8) テクスト分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』音楽演奏シーン
9) 舞台分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』音楽演奏シーン
10) テクスト分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』水風船シーン
11) 舞台分析:『ウルリーケ・マリア・スチュアート』水風船シーン
12) 『ウルリーケ・マリア・スチュア』の演劇テクストと舞台上演の相互関係
13) 受講生による発表
14) 授業全体のまとめ
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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レポート | 50 | 研究発表用のプレゼンテーション用ファイル、ハンドアウト、発表原稿の内容による |
平常点 | 50 | 授業内での質疑、ショートレポートの内容による |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
ディスカッション、ディベート
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
テキスト:
『ウルリーケ・マリア・スチュア』関連の教材をmanaba上で提供する。必要に応じて教材をコピーして配布する
参考文献
〇 Christopher B. Balme : The Cambridge Introduction to Theatre Studies (Cambridge Introductions to Literature) Cambridge University Press 2011
〇 Bruce McConachie 編: Theatre Histories: An Introduction Routledge; 3rd edition 2016
〇 Richard Schechner: Performance Studies: An Introduction Routledge; 4th edition 2020
〇 Erika Fischer=Lichte: Theaterwissenschaft: Eine Einführung in die Grundlagen des Fachs UTB GmbH 2009
日本語訳: 演劇学へのいざない―研究の基礎 (国書刊行会2013)