シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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【通教 夏期】外国法研究1 | 2024 | その他 | 在学生サイトの各スクーリングのページをご確認ください。 | 通信教育課程 | 佐藤 信行 | 3・4年次配当 |
科目ナンバー
JD-BL3-219L
履修条件・関連科目等
履修条件:通信教育課程の学生対象
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
「外国法研究1」は、英米法入門科目でありイギリス法を主対象とする「外国法概論1」の発展科目として位置づけられるもので、イギリスの法伝統を踏襲しながら独自の発展を遂げてきたアメリカ法(とりわけ合衆国憲法)を対象とします。
ところで、日本法を学ぶ皆さんにとって、アメリカ法を学ぶことには、複数の意義が認められます。アメリカ法学修は、今なお世界の大国であるアメリカ合衆国の理解を深める手段でもあり、グローバル化の中で我々に適用される可能性がある法の学びでもあり、さらには「日本法をより深く理解し・考えるための鏡」を学ぶことでもあります。この授業では、特に最後の側面を念頭に議論を展開します。何故ならば、イギリス法の伝統を踏襲しつつ、独自の一大法系を形成しているアメリカ法は、Marbury v. Madison 事件にはじまる附随的違憲審査制に見られるように、日本法の「母法」の一つであり、これを学ぶことは日本法のより深い理解につながる一方で、「悩める大国」でもあるアメリカの法の営みは、日本法の将来を考えるにも重要なヒントを与えてくれるからです。
そこで、この授業では、以下の点を中心として、アメリカ法を学び、さらに日本法についても深く理解し、考えるきっかけとしたいと考えています。
(1)イギリス法に対するアメリカ法の独自性(連邦制と法の支配を中心に)
(2)合衆国における違憲審査制度の誕生(Marbury v. Madison を中心に)
(3)アメリカ型違憲審査制度の問題点と連邦裁判所の対応(民主制と司法権の優越)
(4)司法の自己抑制(司法権の範囲、事件・争訟性の要件、政治的問題の法理)
(5)合衆国憲法と人権保障(第14 修正を中心に)
科目目的
この科目(授業)は、日本国憲法の母法の一つであり、世界の憲法に大きな影響を与えているアメリカ合衆国憲法の基本構造(連邦制、司法審査制及び人権保障の発展)を学び、また、比較法の手法を用いて実定法解釈を行う法解釈方法を学ぶことを目的とします。
到達目標
この科目(授業)の到達目標は、履修者の皆さんが、アメリカ合衆国憲法の基本構造(連邦制、司法審査制及び人権保障の発展)について、憲法規定のみならず、合衆国憲法の動態(しばしば “living constitution” や “living tree” と呼ばれます)を構成する重要判例を用いて説明すると共に、日本国憲法が第2次大戦後に合衆国憲法の強い影響の下に制定されたものであることに鑑み、合衆国憲法との比較によって日本法(とりわけ日本国憲法)のあり方を説明する能力を獲得することです。
授業計画と内容
2日間の対面授業とそれに先行する動画配信型授業(オンデマンド授業)の組み合わせにより、下記の11のテーマについて学びます。なお、テーマ毎の分量に差がありますので、1回に1テーマを扱う訳ではありません。日程とテーマの対応関係は、概ね次のようになります。時間帯の後ろにある[1]等の数字が、テーマの番号です。
動画配信型授業(オンデマンド授業)400分
対面授業は、これを視聴していることを前提として実施しますので、前もって任意の時間に視聴してください。
[1] [2] [3] [4]
対面授業 680分
第1日(2024年8月17日(土))
9:00 ~ 10:40 (100分) [5] [6]
10:55 ~ 12:35 (100分) [7]
13:35 ~ 15:15 (100分) [8]
15:30 ~ 17:10 (100分) [9]
第2日(2024年8月18日(日))
9:00 ~ 10:40 (100分) [10前半]
10:55 ~ 12:35 (100分) [10後半] [11前半]
13:35 ~ 14:55 (80分) [11後半]
[1] 現代日本法と世界の主要法体系
世界の主要法体系と現代日本法の相対的位置関係を確認するために、我国における外国法の継受、とくに明治期における大陸法の継受と第二次大戦後の英米法の影響について概説すると共に、日本における英米法学修の意義について、市民の司法参加を例として検討する。
[2] イギリス法の基礎の確認
英米法発祥の地イギリスにおける国家法の形成過程をコモン・ロー(Common Law)という言葉の歴史的展開に沿って解説するとともに、イギリス法の特色をなすいくつかの制度を再度確認する。
[3] イギリス法に対するアメリカ法の独自性
イギリス法に対するアメリカ法の独自性の最たるものは、イギリスが軟性憲法の伝統をとるのに対して、アメリカが硬性憲法を採用し、かつ2世紀余にわたる違憲審査制度の運用を通じて、これを時代の変化に合わせて発展させてきたことにある。ここでは、アメリカにおける硬性憲法と違憲審査制度の存在を必然たらしめた「連邦制度」について、それが採用されるに至った経緯を独立戦争に遡って解説するとともに、アメリカの連邦制度が過去2世紀余の間にどのように変容してきたかについて、隣国カナダの連邦制度と比較しながら考察する。
[4] 合衆国における違憲審査制度の誕生
18世紀末葉に制定された合衆国憲法を「生ける樹木 living tree」として発展させる原動力となった違憲審査制度は、1803年のMarbury v. Madison 事件における連邦最高裁判決によって確立されたとされる。ここでは、本件の政治的背景とマーシャル長官が打ち出したアメリカ的憲法観を含め、この判決を分析する。
[5] 立法権抑制システムの国際比較
違憲審査制度を立法権の濫用を抑制するシステムとして捉えた場合、アメリカに誕生した「附随的違憲審査」が唯一のモデルではないことが分かる。ここでは、ドイツ等で採用される特別の憲法裁判所による「抽象的規範統制型違憲審査」と対比させながら、アメリカ型システムの特徴を把握するとともに、フランスやカナダの複合型システムについても検討する。
[6] アメリカ型違憲審査制度の問題点と連邦裁判所の対応
アメリカでは、通常の司法裁判所による違憲審査が活発に行われた結果として、機械的な「三権分立」ではなく「司法権優越」の憲法体制が現出したとされる。元来、違憲審査制度に対しては、少数の司法エリートが国民の代表による決定を覆すことを可能にするという意味で、代表民主制の原理に反するという批判が絶えないのみならず、司法権に内在する制度的・機構的問題点も指摘されてきた。ここでは、連邦裁判所がこうした批判に応えるために取り組んできた制度改革のいくつかを取り上げる。
[7] 司法の自己抑制(1:事件性の要件・当事者適格・厳格な必要性の原則)
違憲審査制度に向けられた非民主的・反民主的であるという批判に対して、連邦裁判所は上述した制度改革に加えて、さまざまな「自己抑制の原則」を打ち出してきた。ここでは、これらの自己抑制の原則のうち、特に重要と思われるいくつかの項目について、日本法と対比して考察する。
[8] 司法の自己抑制(2:伝統的自己抑制理論の動揺)
伝統的司法機能観のもとに形成されてきた自己抑制の原則は、司法権の社会的機能が変化するにつれて変容を迫られることとなった。ここでは、「事件性の要件と当事者適格」および「政治的問題の理論」を中心に、伝統的な自己抑制理論の動揺について考察する。
[9] 合衆国憲法と人権保障(1:権利章典(1789)の誕生とその限界)
合衆国憲法に取り入れられた最初の包括的人権規定(権利章典)は、国家全体を通じての統一的人権保障という観点からすれば、重大な欠陥を含んでいた。ここでは、権利章典の限界を明らかにした初期の連邦最高裁判決について検討する。
[10 ]合衆国憲法と人権保障(2:第14修正の制定と権利章典との合一化)
権利章典の限界を克服するために南北戦争という対価を払って制定されたのが、1866 年の第14修正である。しかしながら、これによって直ちに全国に統一的な人権保障が実現された訳ではなく、憲法解釈を通じて行われる「第14修正と権利章典の合一化」という息の長い取り組みが必要であった。ここでは、適正手続条項(Due Process Clause)をめぐる一連の判例を素材として、合一化のプロセスがどのように進められてきたかを具体的に検討する。とりわけ、この部分では「実体的適正手続論」の衰退と再生(特にプライバシー権を取り上げる)について、社会変動と共にある「living tree」としての憲法という視点から合衆国憲法を見ることとしたい。
[11] 合衆国憲法と人権保障(3:平等保護条項の展開)
南北戦争によって奴隷制度は廃止されたが、人種差別問題は、21世紀の今日に至ってもなお、アメリカ社会に根強く残っている。また、近時においては、人種以外の差別も大きな社会問題となっている。今回の講義を締め括るに当って、平等保護条項に関する一連の最高裁判決を通じて、差別の撤廃に向けて苦闘するアメリカの姿を浮き彫りにしたい。
授業時間外の学修の内容
その他
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
予習として、阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』(筑摩書房)を、是非、受講前に読んでおくことをお勧めします。これにより、講義がより深く理解できるでしょう。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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その他 | 100 | スクーリング試験または科目試験により最終評価する。 |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
その他
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
【通信教育課程はなし】
アクティブ・ラーニングの実施内容
実施しない
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
【通信教育課程はなし】
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
【通信教育課程はなし】
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
■スクーリングで使用する教材
講義用資料を配付します。
※スクーリングの講義内容中に「教科書」という表現がある場合は、
通信授業(レポート学習)の教科書を指します。
各科目の教科書は、在学生サイト「教科書・教材」のページを確認してください。
https://sites.google.com/g.chuo-u.ac.jp/tsukyo-current/textbook?authuser=0
■推薦図書
阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』ちくま学芸文庫(2013年)筑摩書房
松井茂記『アメリカ憲法入門』[第9版](2023年)有斐閣
樋口範雄他(編)『アメリカ法判例百選』(2012年)有斐閣
樋口範雄『はじめてのアメリカ法』〔補訂版〕(2013年)有斐閣
田中英夫他(編)『BASIC 英米法辞典』(1993年)東京大学出版会
その他特記事項
【通信教育課程はなし】