シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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西洋テーマ史(1)/西洋各国史(3)A | 2024 | 前期 | 金2 | 文学部 | 白川 耕一 | シラカワ コウイチ | 1~4年次配当 | 2 |
科目ナンバー
LE-WH1-H311
履修条件・関連科目等
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
題目「ホロコーストの震源地―ドイツ、オーストリア、チェコスロヴァキアにおけるユダヤ人迫害と殺害―」
歴史家トニー・ジャッドは「ヒトラーの死から60年、彼の戦争とそれがもたらした諸結果は歴史となりつつある。ヨーロッパの戦後は長く続いたけれども、それが最終的に結末を迎えつつある」と記しています(同『ヨーロッパ戦後史(上)』(みすず書房 2008年(原著は2005年))。最近の歴史学研究では、戦争終了から平和が訪れるまでの移行期を「戦後期」と呼ぶことがありますが、ジャッドによれば、第2次世界大戦の「戦後期」は21世紀初頭まで続いたことになります。その「戦後期」が終了したはずの21世紀初め、第2次世界大戦像をめぐる論争がヨーロッパ各地で噴出しています。
ホロコーストとは、第2次世界大戦中におけるナチス・ドイツによるユダヤ人殺害を表す言葉です。数年間、私は講義で、欧米諸国が第2次世界大戦中におけるユダヤ人の迫害と殺害に対してどのように反応したのかを扱ってきました。なぜなら、ユダヤ人迫害と殺害をナチス・ドイツの特有の現象と見ずに、ドイツを震源地としたヨーロッパ全体にかかわる問題として考えているからです。本講義では、「震源地」であるドイツ、ドイツが最初に侵攻し、併合した地域(オーストリア、チェコ・スロヴァキア)における反ユダヤ主義政策の導入と殺害に至る展開をたどります。
科目目的
現在、歴史像をめぐる厳しい紛争が各地で発生しています。それは、過去の見え方は決して変化しないものではなく、時代や人々の意識によって変化するからです。授業においては、ナチス・ドイツが一方的に反ユダヤ主義をオーストリアやチェコ・スロヴァキアに押し付けたという見方をとりません。オーストリアやチェコ・スロバキアで導入された反ユダヤ主義政策がどのように違うのか、ユダヤ人や現地の人びとの反応にも注目したいと思います。
到達目標
(1)ヨーロッパ現代史を学ぶ上で、必要な知識を獲得する。
(2)ナチス・ドイツにおけるユダヤ人迫害の展開を説明することができる。
(3)オーストリアやチェコ・スロヴァキアにおいて採られた反ユダヤ主義政策の特徴を説明することができる。
(4)第2次世界大戦後のドイツ、オーストリア、チェコ・スロヴァキアにおけるユダヤ人迫害に対する扱いを説明することができる。
授業計画と内容
講義計画
第1回 はじめに
第2回 ナチスの政権掌握と反ユダヤ主義政策(1933年)
第3回 ドイツ・ユダヤ人の国外亡命
第4回 ユダヤ人政策の急進化(1938年)
第5回 行政による反ユダヤ主義政策
第6回 ドイツ人の意識における「ユダヤ人」の姿―ナチス・ドイツの宣伝と効果—
第7回 ナチ支配下の反ユダヤ主義政策(1)オーストリア
第8回 ナチ支配下の反ユダヤ主義政策(2)チェコ・スロヴァキア
第9回 ナチスの民族政策とユダヤ人迫害との関係—ナチ占領下ポーランド―
第10回 ホロコーストの展開(1):いつ大量殺害が発生したのか?
第11回 ホロコーストの展開(2):オーストリアのユダヤ人
第12回 ホロコーストの展開(3):チェコ・スロヴァキアのユダヤ人
第13回 第2次世界大戦後のドイツ、オーストリア、チェコ・スロヴァキアにおけるユダヤ人
第14回 まとめ
授業時間外の学修の内容
その他
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
講義を受講する前、受講しながら、芝『ホロコースト』またはベーレンバウム『ホロコースト全史』のいずれかを受講者が読んでおくことを希望します。
ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害と殺害については、ジェラテリー 『ヒトラーを支持したドイツ国民』がナチ政府の反ユダヤ主義政策に対するドイツ人の反応がよくわかります。
オーストリアやチェコ・スロヴァキアにおけるユダヤ人迫害と殺害については、日本語で読めるものはあまりありません。野村『ウィーン ユダヤ人が消えた街』はユダヤ人迫害と殺害だけでなく、19世紀から現在までのオーストリアにおけるユダヤ人の状況や戦後における迫害の歴史への向き合い方(「過去の克服」)も論じている好著です。ギッシング『キンダートランスポートの少女』は、チェコ人少女からみたユダヤ人迫害が記されています。英語文献のワイマン編『ホロコーストに対する世界の反応』(Wyman(ed.), The World reacts to the Holocaust)は各国別にユダヤ人の迫害・殺害の経過、戦後における動きが簡便にまとめられており、オーストリア、チェコスロヴァキアを扱った章があります。授業の進行にあわせて適宜読み進めてください。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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期末試験(到達度確認) | 70 | 授業で扱った内容に関する理解を問う、論述形式の筆記試験をおこないます。(論述形式で1200字程度)。 |
平常点 | 30 | 授業後に史料読解に関する課題を出題します(2回程度)。 |
成績評価の方法・基準(備考)
学期末の筆記試験においては、以下の点にご注意ください。
・試験中、参考書、書籍、ノート、メモなどの参照は一切できません。
・試験問題と講義内容から著しく逸脱した答案は成績評価の対象になりません。
・解答は文章化してください。箇条書きの答案は採点の対象外とします。
・授業時に配布した資料で、内容が不足する場合には、参考文献などを参照して補ってください。
・自主的な試験勉強の成果が答案上に認められる場合により高い得点を与えます。
課題や試験のフィードバック方法
授業時間に限らず、manabaでフィードバックを行う
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
実施しない
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
【テキスト】
指定しません。授業においては、プロジェクターで授業資料を投影しながら、授業を進めます。授業中の投影した資料は印刷し、受講者に配布します。
文献目録
【概説書、辞典など】
木村 靖二 (編)『ドイツ史 (新版 世界各国史13) 』(山川出版社 2001年)
南塚 信吾 (編)『ドナウ・ヨーロッパ史 (世界各国史19)』(山川出版社 1999年)
レオン・ポリアコフ(菅野賢治他訳)『自殺に向かうヨーロッパ(反ユダヤ主義の歴史第Ⅳ巻)』筑摩書房 2006年)
レオン・ポリアコフ(菅野賢治他訳)『現代の反ユダヤ主義(反ユダヤ主義の歴史第Ⅴ巻)』筑摩書房 2007年)
ウォルター・ラカー(望田幸男他訳)『ホロコースト大事典』(柏書房 2003年)
David S. Wyman(ed.), The World reacts to the Holocaust, John Hopkins UP 1996.
【ドイツ】
バーリー/ヴィッパーマン(柴田敬二訳)『人種主義国家ドイツ 1933-1945年』(刀水書房 2001年)
ロバート・ジェラテリー (著), 根岸 隆夫 (訳)『ヒトラーを支持したドイツ国民』(未来社 2008年)
【ホロコースト】
栗原優『ナチズムとユダヤ人絶滅政策―ホロコーストの起源と実態―』(ミネルヴァ書房 1997年)
芝健介『ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌』(中公新書 2008年)
『戦争と平和(岩波講座世界歴史 第25巻)』(岩波書店 1997年)
永岑三千輝『ドイツ第三帝国のソ連占領政策と民衆 1941-1942』(同文舘 1996年)
永岑三千輝『独ソ戦とホロコースト』(日本評論社 2001年)
永岑三千輝『ホロコーストの力学』(青木書店 2003年)
永岑三千輝『アウシュヴィッツへの道―ホロコーストはなぜ、いつから、どこで、どのように』(春風社 2022年)
『20世紀の中のアジア・太平洋戦争(岩波講座 アジア・太平洋戦争8)』(岩波書店 2006年)
歴史学研究会編『戦争と民衆 (講座世界史8)』(東京大学出版会 1996年)(→石田勇治論文)
ゲッツ・アリー(山本尤・三島憲一訳)『最終解決―民族移動とヨーロッパのユダヤ人の殺害』(法政大学出版局 1998年)
ラウル・ヒルバーク(望田・原田・井上共訳)『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』(柏書房 1997年)
マイケル・ベーレンバウム(芝健介監訳)『ホロコースト全史』(創元社 1996年)
ヴォルフガング・ベンツ(中村浩平他訳)『ホロコーストを学びたい人のために』(柏書房 2004年)
マイケル・マラス『ホロコースト』(時事通信社 1996年)
【オーストリア/ チェコ・スロヴァキア】
野村真理『ウィーン ユダヤ人が消えた街―オーストリアのホロコースト』(岩波書店 2023年)
ヴェラ・ギッシング (木畑和子訳)『キンダートランスポートの少女』(未来社 2008年)
【過去の克服―ユダヤ人迫害の歴史とどのように向き合うのか―】
石田勇治『過去の克服』(白水社 2002年)
望田幸男『ナチス追及―ドイツの戦後』 (講談社現代新書 1990年)