シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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西洋史演習(2)B(6)B/西洋史演習(2)(5)(後期) | 2024 | 後期 | 金4 | 文学部 | 白川 耕一 | シラカワ コウイチ | 3年次配当 | 2 |
科目ナンバー
LE-WH3-H824,LE-WH4-H924
履修条件・関連科目等
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
題目「第2次世界大戦後のアメリカ社会とホロコースト(2)」
概要
歴史家トニー・ジャッドは、2005年の著書において、「ヒトラーの死から60年、彼の戦争とそれがもたらした諸結果は歴史となりつつある。ヨーロッパの戦後は長く続いたけれども、それが最終的に結末を迎えようとしている」と書いています。しかし、彼の言葉とは裏腹に、第2次世界大戦像をめぐる論争が21世紀のヨーロッパ各地で噴出し、「過去の克服」は複雑な様相を呈しています。
第2次世界大戦をめぐる記憶において、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害と殺害(ホロコースト)はますます重みを増していますが、それはなぜそうなったのでしょうか。本演習では、第2次世界大戦中に発生したユダヤ人殺害(ホロコースト)とアメリカ社会との関係を扱います。40年代前半のヨーロッパで発生したホロコーストは、アメリカ人にとっては縁遠い存在です。その事件が、事件発生から時間が経過するにつれて、重みを持ち始めたのです。なぜでしょうか。
この数年間の演習では、デボラ・リップシュタット『予想もできないこと』、ローレル・レフ『「タイムズ」紙によって隠された』を読み、ユダヤ人迫害に関する米国ジャーナリズムの在り方を検討してきました。今年度は、ピーター・ノヴィック『アメリカ人の生活の中のホロコースト』を読み、ユダヤ人殺害が戦後のアメリカ社会で時代によってどのように受け止められていったのかを検討します。
本演習では、前期の演習(西洋史演習(2)A(6)A/ 西洋史演習(2)(5)(前期))に引き続き、テキストの第4章から第10章を扱います。
科目目的
(1)ノーヴィックの著書を通じて、グローバル化した社会における過去の記憶の形成・変容について学びます。例えば、第2次世界大戦中のユダヤ人殺害は加害者のドイツ人、被害者のユダヤ人にとってのみ重視される事件ではありません。その殺害とは無関係のアメリカにおいて、重視される歴史的事件になっていきます。他者の歴史をあたかも自らの歴史のように考える現象が発生しています。それは自然発生的なものではありません。本演習では、アメリカにおけるホロコーストの歴史を例に、グローバル化した社会における記憶の形成と変容を学びます。
(2)後期においては、グループにテキストの一部を割り当て(10頁程度)、レジュメを作成してもらい、演習参加者にテキストの内容を報告していただきます。いかに英語文献を正確に読み、それをわかりやすく報告するかを学びます。
到達目標
(1)英語専門文献を正しく読み、理解し、口頭で報告することができる。
(2)未知の概念を調査する手法を身につけ、正しく調査することができる。
(3)第2次世界大戦の記憶の忘却・想起・変容を、政治・文化などと関係づけながら説明することができる。
授業計画と内容
最初の5回程度は、専門文献の読解に慣れるために、第4章を輪読形式で1人2~3文ずつ逐語的に翻訳していただき、1回あたり3頁程度読み進む予定です。テキストの講読に合わせて、適宜、教員が専門用語の解説や研究状況の紹介をおこないます。
第6回目以降は、演習参加者を2~3人のグループに分け、約10頁を20分程度で口頭報告をしてもらい、それに基づいて質疑応答をおこないます。1回の演習(100分間)で2グループが報告します。
講義計画
第1回 はじめに。演習についてのガイダンス
第2回 第4章 戦後直後、ユダヤ人殺害はどのように認識されていたのか(1):犠牲者は誰だったのか?
第3回 第4章 戦後直後、ユダヤ人殺害はどのように認識されていたのか(2):難民の一部として位置づけられるユダヤ人生存者
第4回 第4章 戦後直後、ユダヤ人殺害はどのように認識されていたのか(3):ユダヤ人殺害の歴史とイスラエル建国
第5回 第4章 戦後直後、ユダヤ人殺害はどのように認識されていたのか(4):経験を語らないユダヤ人生存者。
第6回 テキスト内容報告(1)第5章 過去をどのように扱うべきか(1950年代)
第7回 テキスト内容報告(2)第6章 被害者ユダヤ人への関心
第8回 テキスト内容報告(3)第7章 戦犯裁判がアメリカ社会に与えた影響
第9回 テキスト内容報告(4)第8章 ユダヤ人、ホロコーストの記憶とイスラエル(1)
第10回 テキスト内容報告(5)第8章 ユダヤ人、ホロコーストの記憶とイスラエル(2)
第11回 テキスト内容報告(6)第9章 60年代におけるアメリカ・ユダヤ人の意識の変化―虐殺の歴史に接近―(1)
第12回 テキスト内容報告(7)第9章 60年代におけるアメリカ・ユダヤ人の意識の変化―虐殺の歴史に接近―(2)
第13回 テキスト内容報告(8)第10章 ホロコーストがユダヤ人の記憶からアメリカ人全体の記憶へ(1)
第14回 テキスト内容報告(9)第10章 ホロコーストがユダヤ人の記憶からアメリカ人全体の記憶へ(2)
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと/その他
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
十分に予習した上で演習に参加してください。英文を直訳しただけでは、内容理解にまで至らない場合が多いように思います。翻訳が難しい語句については、できる限り「参考文献」欄の書籍を参照して、定まった訳語(機関名、人名)を使ってください。
歴史的事件としての、第2次世界大戦中のユダヤ人迫害と殺害については、芝健介『ホロコースト』をご覧ください。芝健介『ニュルンベルク裁判』、石田勇治、高橋秀寿、橋本伸也らの文献は、現在におけるホロコーストの記憶に対する向き合い方(「過去の克服」)についての概観を得るために、きわめて有益です。現在の社会において歴史が果たしている役割については、吉田『アフター・リベラル』をご参照ください。演習の進度やテーマにあわせて、一読することを強くお勧めします。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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平常点 | 50 | 予習の度合いや演習中の発言などによって決定する。 |
その他 | 50 | 課題の報告の準備状況や報告の内容によって決定する。 |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
授業時間に限らず、manabaでフィードバックを行う
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
実施しない
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
(1)テキスト
Peter Novick, The Holocaust in American Life, Mariner Book: Boston, New York 2000の第4章から第10章までを扱う予定です。テキストは教員が準備します。
(2)参考文献
有賀貞他編『世界歴史大系 アメリカ史2』(山川出版社 1993年)
石田勇治『過去の克服』(白水社 2002年)
石田勇治他編『想起の文化とグローバル市民社会』(勉誠社 2016年)
木村靖二/柴宜弘/長沼秀世『世界大戦と現代文化の開幕(世界の歴史 第26巻)』(中央公論新社 1997年)
芝健介『ニュルンベルク裁判』(中公新書 2008年)
芝健介『ニュルンベルク裁判』(岩波書店 2015年)
高橋秀寿『ホロコーストと戦後ドイツ―表徴・物語・主体―』(岩波書店 2018年)
武井彩佳『ユダヤ人財産はだれのものか―ホロコーストからパレスティナ問題へ』(白水社 2008年)
橋本伸也『記憶の政治―ヨーロッパの歴史認識紛争』(岩波書店 2016年)
丸山直起『ホロコーストとアメリカーユダヤ人組織の支援活動と政府の難民政策』(みすず書房 2018年)
油井大三郎/遠藤泰生編『浸透するアメリカ、拒まれるアメリカ―世界史のなかのアメリカニゼーション』(2003年 東京大学出版会)
吉田徹『アフター・リベラル―怒りと憎悪の政治』(講談社現代新書 2020年)
リチャード・ブライトマン(川上洸訳)『封印されたホロコーストーローズヴェルト、チャーチルはどこまで知っていたのか』(大月書店 2000年)
レニ・ブレンナー(芝健介訳)『ファシズム時代のシオニズム』(法政大学出版局 2001年)
ノーマン・G. フィンケルスタイン (立木 勝 訳)『ホロコースト産業―同胞の苦しみを「売り物」にするユ ダヤ人エリートたち』(三交社 2004)
Flanzbaum, Helene (ed.), Americanization of the Holocaust, The John Hopkins UP 1999.
Kushner, Tony, The Holocaust and the Liberal Imagination. A Social and Cultural History, Blackwell Publishers, 1994.
Leff, Laurel, Buried by the Times: The Holocaust and America's Most Important Newspaper, Cambridge UP, 2006.
Lipstadt, Deborah E., Holocaust. An American Understanding, Rutgers UP 2016.
Wyman, David S., The Abandonment of the Jews. America and the Holocaust 1941-1945, Pantheon Books 1984
油井大三郎/遠藤泰生編『浸透するアメリカ、拒まれるアメリカ―世界史のなかのアメリカニゼーション』(2003年 東京大学出版会)
吉田徹『アフター・リベラル―怒りと憎悪の政治』(講談社現代新書 2020年)
リチャード・ブライトマン(川上洸訳)『封印されたホロコーストーローズヴェルト、チャーチルはどこまで知っていたのか』(大月書店 2000年)
レニ・ブレンナー(芝健介訳)『ファシズム時代のシオニズム』(法政大学出版局 2001年)
Flanzbeum, Helene (ed.), Americanization of the Holocaust, The John Hopkins UP 1999.
Kushner, Tony, The Holocaust and the Liberal Imagination. A Social and Cultural History, Blackwell Publishers, 1994.
Leff, Laurel, Buried by the Times: The Holocaust and America's Most Important Newspaper, Cambridge UP, 2006.
Lipstadt, Deborah E., Holocaust. An American Understanding, Rutgers UP 2016.
Wyman, David S., The Abandonment of the Jews. America and the Holocaust 1941-1945, Pantheon Books 1984