シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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国際労働問題 | 2024 | 春学期 | 火1 | 法学部 | 田口 晶子 | タグチ アキコ | 3・4年次配当 | 2 |
科目ナンバー
JU-SO3-022L
履修条件・関連科目等
2019年、仕事に関する国連の専門機関であるILO(国際労働機関)は100周年を迎え、「仕事の未来」についての報告書を出した。それによると、技術革新、人口動態の変化、気候変動、経済のグローバル化など仕事の世界で非常に大きな変化が起こっており、それに対処するには、日本のような先進工業国の労働者も就職後つねにリスキリング(学び直し、生涯学習)が必要であり、労働者が急激な変化に対応するための国や企業・労働組合の支援が必要とされた。また、企業活動、特に国外で操業する場合については、以前にもまして、環境や労働者の基本的人権に対する配慮(ビジネスと人権)が求められるようになってきた。
さらに、労働市場におけるコロナ禍の後遺症、ロシアのウクライナへの侵攻とそれにともなうエネルギーや食料品価格の上昇、イスラエルとハマスの戦争など、複合的な要因により、世界全体で企業活動や労働者は大きな影響を受け、また人手不足で優秀な人材の奪い合いが起きている。一方、仕事を失ったり、就労時間を減少せざるを得なかったりして、所得が減少し生活に困窮する労働者も増加している。特に、世界に目を向けると、インフォーマル経済で働いている人々など弱い立場の人々の雇用が失われている。
また、日本においても働き方改革による一連の法制度改正、コロナ禍を契機としたテレワークの普及や大企業における副業の許可など、働き方にさまざまな変化が発生している。
これからの働き方はどのようになるのが望ましいのだろうか。他国での働き方に関心を持つ学生、将来国際機関や国際的な業務に従事したいと考えている学生に受講を勧める。
労働法に関する基礎的な知識があることが望ましいが、未受講でも、当該科目の受講は可能である。
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
ILOが最も重要視し、働く人々の最低限の労働条件を確保することを目的とする国際労働基準の役割、児童労働や強制労働なども日常的にみられる開発途上国の問題、非正規労働者やプラットフォームエコノミーのような不安定な働き方が増加し、格差が拡大する主に先進国の雇用の問題、女性、若年者、障害者など労働市場で不利益を受けやすい労働者、世界的な人手不足の中での国際的な人の移動、職場の安全衛生、グローバルサプライチェーンと企業行動、環境に配慮した労働、労働行政、労使関係など具体的課題に即し、さらにインフレの進行と景気停滞、仕事の世界におけるコロナ禍の後遺症など考えられるグローバルな問題にも配慮しながら、解決法を模索する。世界的な課題と我が国での実態を対比し、今後の展望を行う。
科目目的
コロナ禍は労働市場にも大きな影響を及ぼし、日本国内でも解雇されたり、短時間労働を余儀なくされた労働者が見られた。現在、経済活動は回復してきており、一部の業種・職種を中心に人手不足が発生し、雇用の維持に重点を置いていた労働組合も賃上げを主唱するようになり、大幅に賃金を上昇させる企業も見られるようになった。しかし、物価の上昇も大きく、生活に困窮している労働者は減少しているとはいえない。
日本企業の主要な進出先のアジアの新興国、開発途上国では、インフォーマルセクターで就業している労働者が多いこともあり、さらに大きな負の影響を受けている。コロナ禍の発生する以前から、これらの国々では、労働条件の向上は必ずしも達成されておらず、労使紛争も頻発していた。経済のグローバル化は雇用の増加につながっていた面もあるが、さまざまなひずみももたらしている。
受講者にはこのような課題解決に重要な役割を果たしている国際労働基準(ILO条約・勧告)及び労使紛争の発生の予防や早期解決に有効な社会対話についての理解を促進する。
到達目標
労働条件や労働者の保護がある程度充実していると思われる先進国、アジアの新興国、開発途上国それぞれの労働問題について、日本との共通点、相違点について指摘できる、企業活動が労働者の基本的人権など社会的な側面に配慮することが求められているが、特にビジネスと人権を中心とした海外進出日系企業が配慮すべき点について指摘できる、労働分野において国際的な視点から討議できることを目標とする。
授業計画と内容
1.講義概要の説明(世界の雇用情勢の紹介も含む)、
2.ILO(国際労働機関)の沿革、組織、機構、その提唱するディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現と我が国の対応、仕事の未来についての議論(仕事の世界の変化の要因、仕事の未来を考えるときの論点)、国際労働基準(ILO条約と勧告)と我が国の対応
3.世界の女性労働者
4.世界の若年者雇用、リスキリング、
5.労働市場における弱者に対する取組(障害者、高年齢者、先住民に対する取組等)、労働市場政策
6.労使の対話の重要性、労使紛争
7.賃金や労働時間など労働条件の確保、労働基準監督制度
8.安全な職場の形成
9.児童労働・強制労働の撤廃
10.国境を越える労働者ー世界的な移民の問題と日本における外国人労働者、
11.さまざまな働き方((派遣、パートタイム労働者、契約社員、ギグエコノミー、プラットフォームエコノミーなど)の不安定な雇用)と労働条件改善
12.最近のILOの活動(最近採択された国際労働基準(家事労働者、非公式な経済から公式な経済への移行、仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃など)、 環境にやさしい仕事、貿易・投資と国際労働基準、連帯経済、コロナ禍における取組み)
13.企業活動における労働者の基本的人権の尊重
14.国連の中でのILO、日本とILO、講義の総括、希望者による発表
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと/授業終了後の課題提出
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
レジュメ及び関連ウェブサイトを講義前にウェブに掲載するので、それに目を通しておくこと
毎回講義についての感想・課題への回答(manabaアンケート欄に掲載)を原則次回の講義までに提出すること、提出時期を遵守したものについては、個別に回答し、他の学生にも参考になると思われるものについては、講義中に適宜紹介する、提出時期が遅れたものについても回答・紹介は行わないが、目を通し、採点対象とする予定なので、授業欠席の場合や提出時期を失した場合も、なるべく提出していただきたい
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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レポート | 70 | テーマ、分量、締め切り等については、manabaに掲載する。国際労働問題に関係する課題について、現状を説明し、自分の意見を述べること。評価基準は現状が正しく理解できているか、その課題への対処方法について自分の意見が反映されているかどうか。また、レポート作成にあたって、事前に講師と意見交換をしたい場合は締め切り1週間前までに申し出てほしい。 |
平常点 | 30 | 毎回の授業終了後のアンケートについて、提出回数、内容等を総合的に評価する |
成績評価の方法・基準(備考)
期末レポートについては、受講者の中で希望者がいれば、講義中に発表の機会を設ける。方法等については講義中に説明し、manabaの掲示板に記載する
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける/授業時間に限らず、manabaでフィードバックを行う
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
ディスカッション、ディベート/プレゼンテーション
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
タブレット端末
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
講義中にウェブサイトを紹介する場合もあるので、パソコン(タブレット、スマホなど)を持参していただきたい
実務経験のある教員による授業
はい
【実務経験有の場合】実務経験の内容
厚生労働省に約30年勤務し、省内や関係機関で数多くの国際的な業務に従事してきた。また、ILO(国際労働機関)駐日代表(2016年2月~2020年5月)及び厚生労働省からの出向という形でILO駐日事務所次長(2005年10月~2008年7月)として、特に国際労働基準などILOの取り組みを日本国内に広報することに尽力した。
現在は、ILOの活動の日本での広報等を行っているNPO法人ILO協議会の監事を行っており、2022年に同協議会で集めた寄付金をILOの児童労働プロジェクトに寄付した。
https://www.ilo.org/tokyo/whatsnew/WCMS_854943/lang--ja/index.htm
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
先進国である日本国内の国際機関がどのような取り組みを行っているか、自分の経験に即して紹介したい。また、受講者の中で、将来国際機関への勤務や国際協力に従事したいと考える学生がいたら、ぜひ相談してほしい。
また、公務員を希望する学生に対しても、自分自身の経験を紹介したい。
テキスト・参考文献等
特定のテキストは指定しない。講義のレジュメで代替。
参考文献
厚生労働省 海外情勢報告2022 https://www.mhlw.go.jp/stf/toukei_hakusho/kaigai23.html
労働政策研究機構 データブック国際労働比較 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/index.html
小西國友 国際労働法 信山社
国際労働基準:ILO条約・勧告の手引き2023年版https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_617034/lang--ja/index.htm
グローバル経済のためのルール‐国際労働基準の手引き(100周年記念版)
https://www.ilo.org/tokyo/information/publications/WCMS_493801/lang--ja/index.htm
ILOの日本語広報資料 http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/ からダウンロード可、
その他の参考文献については授業中に指示する。
その他特記事項
受講人数にもよるが、受講生との対話を大切にしたい。
参考URL
ILO駐日事務所ホームページ
https://www.ilo.org/tokyo/lang--ja/index.htm
(独立行政法人)日本労働政策研究・研修機構/海外労働情報
https://www.jil.go.jp/foreign/index.html
厚生労働省雇用に関するホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/index.html