シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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現代資本蓄積論Ⅰ | 2024 | 前期 | 金3 | 経済学研究科博士課程前期課程 | 佐藤 拓也 | サトウ タクヤ | 1年次配当 | 2 |
科目ナンバー
EG-TE5-111L
履修条件・関連科目等
ポリティカルエコノミー(または学部レベルのマルクス経済学、社会経済学、経済原論等)を予めまたは併行して履修していることが望ましいですが、必ずしも必須条件ではありません。そうした基礎的な内容についても、必要に応じて、授業のなかで解説します。
授業で使用する言語
日本語/英語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
現代の資本主義は、1970年代以降、繰り返し発生する短期的なバブルを別とすれば、GDP成長率や設備投資、賃金推移等から分るように、長期の停滞にあると言えます。ところが、このような停滞的なマクロ経済にもかかわらず、企業の利潤率は1980年代(日本は1990年代半ば)を底に回復し、富の偏在もますます進んでいます。
マルクスは、19世紀の資本主義を観察し、資本蓄積の進行に伴って利潤率が傾向的に低落するということを理論的に明らかにしましたが、現代では、資本蓄積は鈍化しながら、資本家の利潤率はかえって上昇するという、非常に矛盾した姿を見せています。
この矛盾した構図は、現代の多くのマルクス経済学者が研究の対象としており、独占資本主義論の見地から解明しようとする論者から、マルクスの利潤率低落法則を基礎に置く研究者、新自由主義にその原因を求める見解、あるいは国家の所得「逆」再分配効果に着目する論者など、多彩なバリエーションがあります。なかには、こうした低成長と利潤率回復の併存という構図そのものを否定する研究者もいます。
さらには、こうした現代の一般理論を、各国の分析(欧米、日本、中国など)へと適用し、それによる現代資本主義分析を展開する議論も多く見られます。
いずれにせよ、この問題は、現代のマルクス経済学が現代資本蓄積を捉えようとするときに避けて通れない論点です。この授業では、こうした諸見解の一部について、履修者と共に検討していきたいと思います。
オンライン授業または部分的に面接授業を取り入れたハイブリッド型授業を実施する場合には、時間割指定時間帯での「双方向授業」を原則とします。
科目目的
マルクス経済学による現代資本蓄積論(現代資本主義論)についてその一部を知り、自らの現代資本主義観を形成する一助となることを、目標とします。
到達目標
(1)マルクス経済学の基本的な考え方を、その基礎的な概念とともに理解することができる。
(2)マルクス経済学による現代資本主義論または現代資本主義論について知ることができる。
(3)マルクス経済学による欧米の論壇の状況について多少とも知見を得て、学問的にも幅広い視野を身につける一助とできる。
(4)マルクス経済学による理論分析と実証分析の関連について知ることができる。
授業計画と内容
・下記のような諸見解を扱ったテキスト(論文を含む)を用いて、マルクス経済学に基づく資本蓄積論を、その他の経済学の諸見解とも比較しながら検討します。
(1)独占資本主義論を基礎に置く見解、または独占資本(寡占企業)と国家、金融資本等を基礎に置く見解(Foster & Magdoff, Suarez-Villa, F. Chesnais)
(2)利潤率低下法則を基礎に置きつつその回復に矛盾を見出す見解(M. Smith, Carchedi, M. Roberts)
(3)利潤率低下法則を重視する見解(Kliman, Freeman)
(4)利潤率の回復を重視する見解(McNally, Moseley)
(5)新自由主義的な蓄積を重視する見解(Dumenil&Levy)
(6)新自由主義的な国家政策を重視する見解(Harvery)
(7)その他
アクティブ・ラーニングを積極的に取り入れます。履修者は事前に指定個所を読み、疑問点・意見等を提示してください。それらを踏まえて担当教員が内容を解説します(反転学習)。その上で、各回のテーマについて、履修者とディスカッションをしながら授業を進めていきます。したがって、高い問題意識を持ち、積極的にディスカッションに参加することが求められます。
・授業計画
(1)取り上げるテキストや受講者の状況に応じて適宜変更する場合もありますが、目安として過年度スケジュールに基づく授業計画を示します。
(2) マルクス経済学と他の経済学との比較の観点や、具体的な理論次元の相違を踏まえて、授業回は交互に、別のテキストを取り上げる可能性もあります。たとえば、今日でますます主要なプレイヤーとなっている金融資本(偶数回)、それが形成する経済のグローバル化と、その反動としての今日的な意味での保護主義の台頭(奇数回)とを交互に学ぶというスタイルです。
第1回 前期の課題設定
第2回 イントロダクション 投資・利潤と景気循環の理論と実証
第3回 景気循環論(1)セー法則の批判
第4回 景気循環論(2)セー法則の受容
第5回 景気循環論(3)外生的理論
第6回 景気循環論(4)外生的理論への批判
第7回 景気循環論から均衡理論へ
第8回 景気循環の賃金主導説
第9回 景気循環の投資主導説 カレツキとケインズ
第10回 景気循環の利潤主導説 マルクスとミッチェル
第11回 マルクスの理論
第12回 ミッチェルの理論
第13回 現代資本主義における利潤の主導性
第14回 実証分析
オンライン授業として実施する場合は「双方向型」で行います。
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
・英語文献に基づいて講義をしますので、履修者は事前に指定個所を読み自ら翻訳をしておいてください。
・マルクス経済学の基本的な用語についても、各自で学習(復習)するよう努めてください。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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平常点 | 100 | ①テキストを読んでの事前の準備(疑問点・意見等の提示)30% ②ディスカッションへの参加 70% なお、ディスカッションにおいては以下の諸点を評価基準とします。 (1)マルクス経済学の基本的な考え方を、その基礎的な概念とともに理解することができたか。20% (2)マルクス経済学による現代資本主義論または現代資本主義論について知ることができたか。20% (3)マルクス経済学による欧米の論壇の状況について知見を得て、学問的にも幅広い視野を身につける一助とできたか 15% (4)マルクス経済学による理論分析と実証分析の関連について知ることができたか。15% |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
反転授業(教室の中で行う授業学習と課題などの授業外学習を入れ替えた学習形式)/ディスカッション、ディベート
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
タブレット端末/その他
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
・manabaを適宜利用します。
・オンライン授業の場合にはWebexまたはZoomを利用します。
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
テキストは以下のようなリストを参考に選ぶ予定ですが、最終的には履修者と相談のうえ決定しますので、まだ購入しないで下さい。場合によってはテキストに代わり論文を使う可能性もあります。
Guglielmo Carchedi and Michael Roberts (2023) Capitalism in the 21st Century
Through the Prism of Value. Pluto Press.
Murray E.G. Smith, Jonah Butovsky and Josh Watterton (2021) Twilight Capitalism: Karl Marx and the Decay of the Profit System. Fernwood Publishing.
Guglielmo Carchedi and Michael Roberts (eds.) (2018) World in Crisis. Haymarket Books.
Murray E.G. Smith (2018) Invisible Leviathan: Marx’s Law of Value ㏌ the Twilight of Capitalism. Historical Materialism Book Series.
Michael Roberts (2016) The Long Depression: Marxism and the Global Crisis of Capitalism. Haymarket Books.
François Chesnais (2016) Financial Capital Today: Corporate and Banks in the Lasting Global Slump. Haymarket Books.
Bill Dunn (2014) The Political Economy of Global Capitalism and Crisis. Routledge.
Guglielmo Carchedi (2012) Behind the Crisis: Marx's Dialectics of Value and Knowledge. Haymarket Books.
Luis Suarez-Villa (2015) Corporate Power, Oligopolies, and the Crisis of the State. State University of New York Press.
Murray E.G. Smith (2014) Marxist Phoenix: Studies in Historical Materialism and Marxist Socialism. Canadian Scholars' Press.
Murray E.G. Smith (2010) Global Capitalism in Crisis: Karl Marx & the Decay of the Profit System. Fernwood Publishing.
Alex Callinicos (2010) Bonfire of Illusions: The Twin Crises of the Liberal World. Polity Press.
John Bellamy Foster and Fred Magdoff (2009) The Great Financial Crisis: Causes and Consequences. Monthly Review Press.
Andrew Kliman (2012) The Failure of Capitalist Production: Underlying Causes of the Great Recession. Pluto Press.
David McNally (2011) Global Slump: The Economics and Political of Crisis and Resistance. PM Press.
Gerard Dumenil and Dominique Levy (2011) The Crisis of Neoliberalism. Harvard University Press.
David Harvey (2005) A Brief History of Neoliberalism. Oxford University Press.
その他特記事項
この授業は講義科目ですが、通常の演習授業と同等レベルのアクティブラーニングを行います。すなわち、履修者による事前の翻訳(予習)、翻訳箇所の履修者による発表、それを受けた教員による英文の解説、内容についての質疑応答、履修者全員によるディスカッションなどです。したがって、履修生は、受け身の講義科目としてではなく、主体的に学習する演習科目と同様の位置づけで、授業に参加してください。