シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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原典講読 | 2025 | 通年 | 水4 | 文学部 | 高野 浩之 | タカノ ヒロユキ | 2年次配当 | 4 |
科目ナンバー
LE-PE2-J109
履修条件・関連科目等
本授業では、哲学書をフランス語原典で読解していきますので、フランス語の基本的な文法や語彙を勉強しておくことが望ましいです。とはいえ、テキストとする『逃走論』は、複数の翻訳があり、それを参考にしながら読んでいくことができますので、フランス語の力に自信のない方でも、心配しすぎる必要はありません。また、フランス語未習の方は訳読を後期授業に担当してもらおうと思います。
本授業では、エマニュエル・レヴィナスの現象学的哲学にかかわる書物を読みますので、現象学について、事前に、あるいは授業と並行して学習していくと良いでしょう。参考文献は別項目に挙げておきました(挙げたもの以外の文献を参考にしてもらっても、まったく構いません)。
また、『逃走論』という作品については、翻訳者の方による解説がありますし、近年刊行された『レヴィナス読本』(レヴィナス協会編、法政大学出版局、2022年)にも著作解説が載っていますので、参考になるはずです。フランス語に自信のある方は、レヴィナスの弟子であるジャック・ロランが " Sortir de l'être par une nouvelle voie" というタイトルで、『逃走論』の長大な解説をLe livre de poche版に付けていますので、こちらを読んでも良いでしょう。
文献情報は下記の項目に挙げてあります。
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
本授業では、エマニュエル・レヴィナス(1906-1995)が独自の哲学をはじめて公にした論考のひとつであるDe l'évasion(『逃走論』(1935))を読み、その内容を参加学生が各自で解釈することをめざします。
レヴィナスは、本著作(発表当時は論文でしたが)や、前年(1934)発表の『ヒトラー主義哲学にかんする若干の考察』(以下、『考察』/こちらも発表当時は著作ではなく論文)によって、フッサールとハイデガーの解釈者から脱して、両者(とくに後者)の批判を通して、独自の哲学を提示しはじめました。
1930年台初頭まで、レヴィナスはハイデガーの存在論にフッサールの主知主義を乗り越える可能性を看取して、ハイデガー哲学に肯定的な立場を採ってきました。
ところが、1933年にハイデガーはフライブルク大学総長に就任し、就任演説「ドイツ大学の自己主張」により、ナチスへの加担を表明します。
フランスに帰化したユダヤ人であるレヴィナスは、このハイデガーの態度に衝撃を受けます。
レヴィナスは『考察』で、ハイデガーが加担したヒトラー主義を哲学として考察対象としました。そして、この哲学の本質として、人間を身体へと完全に繋縛してしまう、自由が皆無の思想であることを彼は見出しました。
その後レヴィナスは、人間存在を自己自身への繋縛と捉えたうえで、いかにしてそこからの「逃走」が可能となるのかを見出そうとして、彼独自の思想を展開していくことになります。有名なエロスや他人の顔といった彼一流の他者論を考えるうえでも、この初発の動機としての「逃走」というモチーフは大変重要だと思われます。
本授業でテキストとする『逃走論』は、タイトルどおりこの「逃走」をテーマとしたもので、ヒトラー主義哲学に見出した、人間存在の自己繋縛状態を問題化して、ここからの逃走の可能性を探究する作品です。
哲学者の文章を出席者が各自でどのように読解できるようになるか、またそこから現代社会の問題にアプローチできる発想を掬いとることができるのか、こうしたことを念頭に授業ができれば、と思います。
科目目的
・哲学のフランス語文献を正確に読み解く能力を身につけること。
・現実の社会問題や自分自身の問題とのかかわりを探究してみること(可能ならば)。
① まずは、文法にしたがって正確な日本語に訳せるようになることを目指します。接続詞や副詞などのニュアンスはどのようなものか、代名詞がなにを受けているのか、関係代名詞はどこに係るのか、といったことに気をつけて訳してください。
② そのうえで、この文章によって著者がいったいなにを言おうとしているのかを、自分自身の言葉で説明できるようになることを目指します。
③できれば、現代社会の問題へ応用できることがあるか考察してみても良いでしょう。また、レヴィナスの見出す人間存在の本質と自分自身の実存的問題との接点を探ってみても良いかもしれません。
到達目標
単位修得のためには、少なくとも上述の「科目目的」の①をある程度達成することが必要になります。①を達成しつつ、さらに②の達成を目指していきましょう。(とはいえ、テクスト読解において、①と②は相互に連関しています)
③については各自の自由ですので、到達目標には含めません。
授業計画と内容
初回は、イントロダクションとして、テクスト読解に必要な前提となる内容について講義をおこないます。
その後、輪読形式の授業となります。訳読担当者には、担当範囲のフランス語を日本語に訳してもらいます。毎回、前回の内容の復習をしつつ、ゆっくりとフランス語のテクスト読解をしていきます(前回の内容の振り返りは、前回の担当者にやってもらいます)。フランス語の文法などもていねいに確認していくので、おそらく毎回1~2ページぐらいのペースで読み進めていくことになると思います。
※フランス語未習の学生は、後期から訳読発表を担当してもらいます。その間にフランス語初級の勉強をしてください。
以下、各回の授業内容です。ページ数表記はLe livre de poche版のものを用いています。テキストはコピーしたものを初回に配布しますので、自分で用意する必要はありません。ただし、翻訳については、必要な方は各自で用意してください(図書館等で入手可能ですから、かならずしも購入する必要はありません)。
第01回 イントロダクション(授業の形式、レヴィナスについて)
第02回 pp. 91-92
第03回 pp. 93-94
第04回 pp. 94-95
第05回 pp. 95-96
第06回 pp. 96-97
第07回 pp. 97-98
第08回 pp. 98-99
第09回 pp. 100-101
第10回 pp. 101-103
第11回 pp. 103-105
第12回 pp. 105-106
第13回 pp. 107-108
第14回 pp. 108-110
第15回 pp. 111-112
第16回 pp. 112-113
第17回 pp. 113-115
第18回 pp. 115-116
第19回 pp. 116-117
第20回 pp. 117-118
第21回 pp. 118-120
第22回 pp. 120-121
第23回 pp. 121-122
第24回 pp. 122-124
第25回 pp. 124-125
第26回 pp. 125-126
第27回 pp. 126-127
第28回 全体の振りかえり
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
全員が次回の授業で読む箇所の単語を調べ、構文を確認しておくこと。とくに、接続詞、副詞、代名詞などに注意して、できるだけ細かく、丁寧に予習してきてください。それゆえ、予習の時間はかなりかかることになると思ってください。辞書や文法書とにらめっこしながらの作業になるでしょう(とはいえ、レヴィナスはフランス語のネイティブではありませんし、そのフランス語も文法的に難解なものというわけではないと思います)。
既刊の翻訳が複数ありますから、それらと「相談」しながら予習すると良いでしょう。とはいえ、翻訳は訳読の「答え」ではありません。また、翻訳アプリはとくに近年大変な進歩を遂げていますが、こちらも訳読の「答え」ではありません。予習は、辞書や文法書を助けに、また既刊の翻訳を参考にしながら、「自力で」行ってください。
参考文献に挙げた資料を読むことは義務ではありません。興味が湧いたら、授業時間外に読んでみてください。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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レポート | 70 | 出席者には訳読を担当してもらいます。この訳読の発表をレポートとみなします。 ①単語の意味や文法事項をとれているか、②文章の哲学的な内容を整合的に理解しているか、という点をチェックします。 |
平常点 | 30 | 授業の終わりに、毎回コメントを書いてもらいます。 基本的に、自らの意見とその理由が説得力のある形で書かれているかどうかをチェックします。もちろん、授業内容の疑問点などを自由に書いてもらっても構いません。 |
成績評価の方法・基準(備考)
出席率が70%に満たない場合は単位習得を認めない。
ひとつのテクストを続けて読んでいくので、あまり欠席が続くと内容が理解できなくなってしまいます。全授業回数の70%は出席してください。
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける/授業時間に限らず、manabaでフィードバックを行う
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
毎回、コメントを書いてもらいます。みなさんが書いてくれたコメントに対して、つぎの回に教員が解説をします。
アクティブ・ラーニングの実施内容
ディスカッション、ディベート/プレゼンテーション
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
① 担当者に翻訳を発表してもらいます。
② テクストの内容についてそのつど質問を受け付け、議論をします。
どんな細かい点でも、なにか気づいたことがあれば発言(書き込み)をしてください。みんなで思ったことを述べあい、対話をすることによって、テクストに書かれた哲学的内容をより深く発展させていくことができます。
授業におけるICTの活用方法
その他
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
必要に応じてmanaba等を活用する。
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
[テクスト]
Emmanuel Levinas, De l'évasion, Paris: LGF Le livre de poche, 2020.
(⇒輪読箇所はpp. 91-127 ※必要に応じてロランによるAnnotations(註)を読む可能性もあります)
[翻訳]
・エマニュエル・レヴィナス「逃走について」、『超越・外傷・神曲 ――存在論を超えて――』内田樹/合田正人編訳、東京、国文社、1986年、54-89頁。(⇒「逃走について」の翻訳は内田樹が担当)
・————「逃走論」、『レヴィナス・コレクション』合田正人編訳、東京、筑摩書房、ちくま学芸文庫、2008年、143-178頁。
[参考文献(『逃走論』関係)]
・合田正人「解説(Ⅱ)」、『超越・外傷・神曲』、前掲書、90-100頁。
・レヴィナス協会編『レヴィナス読本』法政大学出版局、2022年。
(⇒石井雅巳、犬飼智仁、渡名喜庸哲、藤岡俊博「第Ⅰ部「来歴」」、高井ゆと里「基本概念・基本事項「不安(Angst)と吐き気(nausée)」」、黒岡佳柾「著作解題『逃走論』」などを参照)
・Jacques Rolland, "Sortir de l'être par une nouvelle voie", in De l'évasion, op. cit..
など
[参考文献(現象学関係)]
・木田元『現象学』、東京、岩波書店、岩波新書(青版)763、2008年。
・谷徹『これが現象学だ』、東京、講談社、講談社現代新書1635、2009年。
・植村玄輝、八重樫徹、吉川孝編著/富山豊、森功次著『ワードマップ 現代現象学 経験から始める哲学入門』、東京、新曜社、2019年。
・富山豊『フッサール 志向性の哲学』、東京、青土社、2023年。
など
その他、授業で適宜紹介。(※出版年は教員が所有しているものを表記しています)