シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
専門総合講座B1 欧米独占禁止行政と企業実務(米国) | 2024 | 春学期 | 土2 | 法学部 | 河野 琢次郎、佐藤 文彦 | コウノ タクジロウ、サトウ フミヒコ | 3・4年次配当 | 2 |
科目ナンバー
JU-OL3-026L
履修条件・関連科目等
講義では、米国の独占禁止行政(シャーマン法など米国反トラスト法の制定・判例法、法令解釈、主要の個別ケース、行政機関及び議会の最近の動向を指すものとします。)に関する幅広い題材を扱いますが、独占禁止行政を初めて学修する学生を対象とし、基本的な事項から説明するので、独占禁止行政又は米国法を既修している必要はありません。
日本と米国の独占禁止行政には、様々な部分で、共通性・類似性、相違点がみられます。日米比較は本講義の中で随時取り扱いますが、学生自ら、講義の中で出てきた題材に関する日本の事情(公正取引委員会の動向など)をウェブサイトその他メディアを使って知識として獲得すると、より高い学修効果が得られるでしょう。
講義の中で、グーグル、フェイスブックといった米国デジタル・プラットフォーム企業、訴訟等に巻き込まれた我が国企業を巡る独占禁止行政につき具体的に論じていきます。よって、「将来、プラットフォームビジネスに関わってみたい。」、「国際的なビジネス行う企業や、外資系企業への就職も考えている。」、「独占禁止法に興味がある。」、「将来、企業法務に携わりたい。」といった関心、希望を持つ学生の受講も期待しています。
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
1890年に制定された米国独占禁止法は、世界で二番目に古い競争法で、いわば競争法の元祖、我が国独占禁止法の母法でもあります。
競争法の域外適用を世界に先駆けて実施してきたのも米国です。その法執行機関(司法省反トラスト局、連邦取引委員会、米国連邦裁判所等)は、談合・カルテル事件に対して、刑事・民事の両面で、外国企業が米国外で行った行為にも、躊躇なく、米国独占禁止法を適用してきた経緯があることは注目に値します。このような米国法執行機関の積極的な域外適用は、世界各国・地域の競争当局に大きな影響を与えてきています。
米国のデジタル・プラットフォーム企業の事業活動は、検索、広告、SNS、企業・個人データの取引といった分野で世界的に重要な地位を占めています。その活動は、利用者の生活の利便性を高めるなどのメリットを与える一方、市場における競争に悪影響を与える場合があることも指摘されています。このような事情を背景に、2020年以降、米国では、
・連邦政府及び40を超える数の州政府が、検索アプリをスマホ画面の最も目立つ位置にプリインストールし、競合する検索アプリのプリインストールを禁止する排他的な契約を締結しているなどとして、グーグルを提訴
・連邦政府が、画像共有アプリ「Instagram」や対話アプリ「WhatsApp」など、将来ライバルになるおそれがあった新興企業を買収し、競争の芽を摘んでいるとして、フェイスブックを提訴
・連邦議会は、アプリストア、課金システム、検索、SNSなど主要なデジタル・プラットフォーム企業をターゲットにした米国独占禁止法(シャーマン法)を改正する法案が超党派で策定し、司法委員会で賛成多数で可決
といったように、米国独占禁止行政が転換期を迎えていることを象徴する事象が次々と現れています。
なお、このような動向は米国のみならず世界各国・地域でみられます。例えば、
・2022年、欧州では、「デジタル市場法」が成立、施行され、オンライン仲介ビジネス、検索、バーチャル・アシスタントなどのコア・プラットフォームを大規模に展開する「ゲートキーパー」が、自社に有利なランキングの禁止、自社サービスへのデフォルト切り替えの容易化の義務付けが法定化
・2023年、日本では内閣官房長官を議長とし、公正取引委員会委員長などがメンバーである「デジタル市場競争会議」が、モバイル・エコシステムの競争評価を実施、既存の独占禁止法などを補完する事前規制の新規立法を提言
という動きもあります(このほか、英国、ドイツ、オランダ、韓国にもこの分野で動きがありますが、これらは講義の中で説明します。)。
本講義では、実務家である講師(河野)が、以上の内容を企業経営実務の観点も織り交ぜつつ、講じていきます。
科目目的
米国独占禁止法の基本的事項を理解することが第一の目的になります。この目的を達成するため、講義では、実体規定、重要な判例や捜査手続を詳しく解説することで、学生の理解到達を支援します。
「世界的にみて最も厳しい」と評される米国反トラスト法の「談合・カルテル事件」の実像に迫り、国際的な企業の法務に必要な実践的理解を深めます。このため、講義では、我が国の多くの企業が摘発された国際カルテルの事例の背景事情、起訴、公判、収監まで一連の流れを具体的に説明していきます。
近年、米国法執行機関が大きく方針を転換し、グーグル等の巨大IT企業の分割を求めて提訴するまでに至った経緯、事実関係を理解することも重要な目的とします。講義では、具体的なケース、立法府の動き、ロビー団体などステークホルダーなど米国政治のダイナミクスにも触れていきます。
到達目標
本講義を履修した学生が、将来、米国独占禁止政策に関連するニュースを見たとき、その内容を理解し、その背景事情をある程度合理的に推測し、自分の言葉で説明できるようになること、これが本講義の目的です。また、米国独占禁止法の知識を得ることで、我が国の独占禁止法を知る足がかりとなることも目標としています。
授業計画と内容
【序論、基礎】
1.独占禁止政策とは何か(Is Big Bad?) デジタル時代の新展開
2.米国反トラスト法(シャーマン法、クレイトン法、連邦取引委員会法)の基礎、日米比較
【カルテル、談合規制】
3.共謀、協定に対する規律(1)(合意の立証と状況証拠の活用)
4.共謀、協定に対する規律(2)(当然違法の法理と合理の原則の法理)
【手続き】
5.刑事執行手続と民事執行手続き
6.量刑ガイドライン、リニエンシー
7.司法取引、起訴、裁判手続、判決
【独占規制】
8.独占行為に対する規律(1)(抱き合わせ、略奪的価格設定)
9.独占行為に対する規律(2)(再販売価格維持、選択的流通)
【デジタル化と独占禁止政策の転換】
10.経済のデジタル化に伴う考慮要素(ランキング・アルゴリズム、多面市場、無料サービス、ネットワーク効果)
11.米国、欧州、アジアの動向
12.ケース・スタディ(グーグルVS司法省、フェイスブックVS連邦取引委員会、エピックVSアップルといった各種訴訟のケース・スタディ)
13.反トラスト法改正に向けたイニシアティブ(バイデン政権の優先課題、American Innovation and Choice Online Act, Open App Markets Act, etc.)
14.総括・まとめ
授業時間外の学修の内容
その他
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
日々の生活の中で、インターネットや新聞をみると、本講義に関係がありそうなニュースに接することがあると思います。そのときは、その情報をできる限りメモするなど記録して、manabaなどで講師に問いかけたり(「このニュースは独占禁止法に関係がありますか?」というような基本的な質問こそ、大いにウェルカムです。)、事例を紹介することを期待します。
米国独占禁止政策の基本的事項や最近の動きについては、公正取引委員会のウェブサイト(「世界の競争法」、「海外当局の動き」など)も活用してください。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
---|---|---|
レポート | 80 | ・講義で触れた重要事項への言及 ・論理的な構成 ・適切な表現 ・参考文献などがある場合には適切な引用 ・自身の考えの積極的な展開 などを総合的に評価します。 |
平常点 | 20 | 毎回の講義資料の視聴、掲示板等での質問や議論などを総合的に評価します。 |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
授業時間に限らず、manabaでフィードバックを行う
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
manabaによるフィードバックのほか、manabaに展開された学生の関心・質問などに応じて翌週の講義資料を変更したり、期中にリアルタイム・双方向型のセッションを設けてコミュニケーションを図ることで、学生の理解が進むよう工夫します。
アクティブ・ラーニングの実施内容
実施しない
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
はい
【実務経験有の場合】実務経験の内容
本講義は、1995年から現在まで、主に公正取引委員会(直近3年間は主に内閣官房デジタル市場競争本部事務局)において、独占禁止行政に携る実務家(河野)が担当します。本講義に関連する主な実務経験は、概要以下のとおりです。
■公正取引委員会事務総局での実務経験■
・我が国独占禁止法の運用、国際カルテルの摘発、企業法務側との折衝
・米国司法省反トラスト局等との間で独占禁止法の執行に関する調整、意見交換
・二国間及び多国間の国際協力におけるイニシアティブ(International Competition Network, OECDなど)
・生成AI、経済安全保障、人権デューデリジェンス、グリーンなど先進的な事象と競争政策の関係
■内閣官房デジタル市場競争本部事務局での実務経験■
・内外のデジタル分野における独占禁止行政の情報収集・分析
・我が国モバイル・エコシステムに関する競争政策の企画立案
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
例えば以下のように分野で、講師の実務経験を随所に織り込んだ講義を行う予定です。
・我が国独占禁止行政を司る公正取引委員会の法執行手続との米国との比較
・日米欧の競争当局間で行われる法運用での協力
・デジタル分野に適した法制度となるような米国での制度改正に向けた動き
・日本政府におけるモバイルエコシステムにおける競争上の課題や立法論
・生成AI、経済安全保障、デューデリジェンス、グリーンなど先進的な問題への独占禁止行政の日米比較
テキスト・参考文献等
テキスト:使用しません。講義毎にレジュメ、参考資料等を配布します。
参考文献:「米国反トラスト法実務講座」(著者 植村幸也、出版社 公正取引協会)
その他特記事項
■授業の工夫■
本講義は、ナレーション付きの講義資料(音声付きのパワーポイントファイル 等)の視聴によって知識のベースを形成します。その中で、身近な事例を素材に実践力、応用力の育成も図ることとしています。また、manabaを活用して、学生又は講師との間で質問、コメントすることで、疑問点の解消、講義内容の補充、理解度の把握を行います。1~2回、自由参加型のオンライン・ミーティングを行い、双方向型を志向したコミュニケーションの機会を設ける予定です。
■その他■
本講義は、後期に開講予定の専門総合講座B1「欧米独占禁止行政と企業実務(EU)」と姉妹関係にあります。よりグローバルな視点を身につけるため、後期には、このEUに関する講義を履修することをお勧めします。