シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
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入門・経済 | 2024 | 後期 | 月3 | 文学部 | 中村 勝己 | ナカムラ カツミ | 1~4年次配当 | 2 |
科目ナンバー
LE-EO1-U107
履修条件・関連科目等
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
2021年10月末の総選挙で日本の政権は新しく岸田首相の下で動き始めました。その岸田首相が「新しい資本主義」について語っています。最近、本屋さんに行くと「資本主義」というタイトルをつけた本が多く並んでいます。世界全体でみると経済成長は続いており、以前にもまして世界中で経済活動が活発化しています。しかしまた、大規模な気候変動のような地球環境破壊が指摘されています。かつては「発展途上国」と呼ばれ貧困にあえいでいた国々のなかからも経済成長して暮らし向きの良くなった人々が増えました。なかには「新富裕層」と呼ばれるような大金持ちも生まれています。しかしその反面、かつては「先進国」とされた国々のなかにも、産業構造の激変により仕事を失った人が増え、貧困状態に陥る人も少なくありません。こうした世界中に広く見られるようになった貧困問題を指して「グローバル・サウス」という言い方がなされるようにもなりました。
むかしは、資本主義というと、その前提として「資本主義 対 社会主義」という〈経済体制〉の違い・政治的対立があって、そのどちらの経済体制がより優れているのかという議論が活発になされていました。しかし30年ほど前のソ連・東欧社会主義体制の解体、さらには中国・ベトナム・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の市場開放政策(社会主義的市場経済の実験)の導入により、この論争には決着がついたとされました。つまり、経済体制として資本主義の方が優れている、というよりも経済体制としては資本主義以外にはありえないという主張が圧倒的に優位を占めていました。そういう時代には、そもそも〈資本主義〉という言葉自体が死語のような扱いを受けていたのです。そうした雰囲気がこの数年、明らかに変化してきました。
きっかけは、今から10年以上前、2008年のリ-マン・ショックです。金融商品の取引が過熱し、リスクの高い金融商品が世界市場に流れ、それが不良債権化し、結局は多くの損失を世界中に与えてしまった。資本主義は優れた経済体制だというが、実は不安定で絶えず変化する仕組みのようです。こういう時代に私たちの暮らしはどうなるのか? 多くの人が漠然とした不安や将来の見えにくさを感じています。「本屋さんに行くと〈資本主義〉というタイトルをつけた本が多く並んでいる」という冒頭の話は、おそらく人々のそうした感覚を反映しているのだと思います。
また、今回の covid-19(新型コロナ・ウイルス)の大流行も、中国で狩猟した野生動物を「海鮮市場」に持ち込み、それを客の目の前で捌いて食肉として販売していたことが発端だと言われています。漢方薬用のセンザンコウが発生源だという説もある。いずれにしても、野生動物の体内で静かに潜伏していたコロナ・ウイルスが、動物から人間に感染し、更に進化してヒト=ヒト感染を引き起こし、それが猛烈な勢いで世界に蔓延したと推測できるのです。
これがグローバル資本主義の最突端である中国の地方都市で始まったことが興味深い。野生動物の食肉化あるいは漢方薬の原料化も、そうしたグローバル資本主義の勢いによって駆動されているはずだからです。世界中でコロナの対策が講じられている現在、外国への渡航、そして外国からの渡航を全面禁止している国も出てきました。こうしてこれまでのグローバル化は事実上、頓挫しました。経済のグローバル化を今後も続けるべきなのかについても議論も始まっています。
資本主義という経済体制は、どのように作られてきたのか。今どうなっているのか。そしてこれからどうなるのか。この授業では、20世紀の代表的な経済学者や歴史学者、政治学者、社会学者、哲学者たちの著作を取り上げながら、この問いに答える試みです。
科目目的
文学部の学生として現代の経済についておおまかな知識と見通しを身につけること。
到達目標
文学部の学生として現代の経済についておおまかな知識と見通しを身につけられるようにすること。
授業計画と内容
第1回 ガイダンス――資本主義論の復活と隆盛
第2回 資本主義の歴史――経済学者たちの議論から
第3回 資本主義の現在と将来――近年の議論から
第4回 経済の技術化――産業革命から今日まで
第5回 経済成長と地球環境――気候変動問題
第6回 サービス化・情報化――ポスト工業化社会へ
第7回 まとめ
第8回 消費社会化と流行――ライフスタイルの革命
第9回 新しい階級・格差――グローバル化の光と影①
第10回 移民・国際労働力移動――グローバル化の光と影②
第11回 欲望・蕩尽・承認――消費社会化の先へ
第12回 経済の金融化――グローバル金融資本主義の行方
第13回 市場・再分配・互酬――資本主義とコミュニティ
第14回 総括:
順番は、多少入れ替わる可能性もある。
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
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期末試験(到達度確認) | 45 | 9ポイント × 5点=45点 |
レポート | 45 | 9ポイント × 5点=45点 |
平常点 | 10 | 授業中の質疑応答の時間におけるコメントや質問など、授業と向き合う姿勢を総合的に評価する。 |
成績評価の方法・基準(備考)
授業の理解度を確認するために、中間と期末にレポート提出を課すことにする。内容は、中間のレポート課題が前半6回の講義に関するもの、期末のレポート課題が後半6回の講義関するものとなる予定である。
毎回の対面授業においては、質問なりコメント(感想)を出してもらう。そうしてくれた学生に限り出席調査票を渡して出席扱いとする。
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
アクティブ・ラーニングの実施内容
実施しない
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
テキストは使用しません。資料をmanabaにアップします。授業時間以外に予習・復習に活用して下さい。
授業で紹介する参考文献は以下の通りです。興味が湧いたら一冊読んでみて下さい。
伊東光晴・根井雅弘『シュンペーター――孤高の経済学者』岩波新書
伊豫谷登士翁『グローバリゼーションと移民』有信堂、2001年
岩間夏樹『戦後若者文化の光芒――団塊・新人類・団塊ジュニアの軌跡』日本経済新聞社1995年
小沢雅子『新・階層消費の時代――所得格差の拡大とその影響』日本経済新聞社1985年(朝日文庫版1989年)
小野善康『成熟社会の経済学』岩波新書2012年
大河内直彦『チェンジング・ブルー――気候変動の謎に迫る』岩波現代文庫2015年
小熊英二『社会を変えるには』講談社現代新書2012年
小熊英二『日本社会のしくみ――雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社現代新書2012年
マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』中山元訳、日経BP社
ガルブレイス『ゆたかな社会』鈴木哲太郎訳、岩波書店1990年
桑原靖夫『国境を越える労働者』岩波新書、1991年
ユルゲン・コッカ『資本主義の歴史』山井敏章訳、人文書院2018年
サスキア・サッセン『グローバル・シティ――ニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』伊豫谷登士翁監訳・大井由紀+高橋華生子訳、ちくま学芸文庫、2018年
佐々木力『21世紀のマルクス主義』ちくま学芸文庫
猿谷要『アメリカ人とアメリカニズム――人間の世界歴史⑭』三省堂
佐和隆光『グリーン資本主義――グローバル「危機」国服の条件』岩波新書2010年
ヨーゼフ・シュムペーター『資本主義・社会主義・民主主義』中山伊知郎・東畑精一訳、東洋経済新報社
田原牧『人間の居場所』集英社新書、2017年
手塚和彰『労働力移動の時代――「ヒト」の開国の条件』中公新書、1990年
友原章典『移民の経済学――雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか』中公新書、2020年
中岡哲郎『人間と労働の未来――技術進歩は何をもたらすか』中公新書、1970年
――『工場の哲学――組織と人間』平凡社、1971年
長谷川貴彦『産業革命:世界史リブレット116』山川出版社
ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分――全般経済学試論・蕩尽』酒井健訳、ちくま学芸文庫、2018年
ハリー・ブレイヴァマン『労働と独占資本』富沢賢治訳、岩波書店
ダニエル・ベル『イデオロギーの終焉』岡田直之訳、東京創元社1969年
――『脱工業社会の到来』上下、内田忠夫ほか訳、ダイヤモンド社
ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』今村仁司・塚原史訳、紀伊國屋書店1979年
マズロー『[改定新版]人間性の心理学――モチベーションとパーソナリティ』小口忠彦訳、産業能率大学出版部、1987年
カール・マルクス『資本論』(全9巻)岡崎次郎訳、国民文庫
マルクス『資本論』社会科学研究所監修・資本論翻訳委員会訳、第3分冊、新日本出版社
クリスティアン・マラッツィ『現代経済の大転換』多賀健太郎訳、酒井隆史解説、青土社
見田宗介『現代社会の理論』岩波新書、1996年
水野和夫『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』日経ビジネス人文庫2013年(初版2007年)
宮台真司『制服少女たちの選択』講談社、1994年
村上泰亮『新中間大衆の時代』中央公論社1984年(中公文庫1987年)
ドネラ・H・メドウズほか『成長の限界・人類の選択』ダイヤモンド社2005年
山田鋭夫『レギュラシオン理論――経済学の再生』講談社現代新書
山之内靖『マックス・ヴェーバー入門』岩波新書
リピエッツ『レギュラシオンの社会理論』若森章孝監訳・若森文子訳、青木書店
エベレット・ロジャーズ『イノベーションの普及』三藤利雄訳、翔泳社2007年