シラバス
授業科目名 | 年度 | 学期 | 開講曜日・時限 | 学部・研究科など | 担当教員 | 教員カナ氏名 | 配当年次 | 単位数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
刑法総論 | 2024 | 春学期複数 | 火4,木1 | 法学部 | 只木 誠 | タダキ マコト | 2年次配当 | 4 |
科目ナンバー
JU-CR2-001L,JU-CR3-001L
履修条件・関連科目等
授業で使用する言語
日本語
授業で使用する言語(その他の言語)
授業の概要
現在、刑法理論ほど理論的対立の激しい学問はないといえよう。というのも、その解釈の結果が人の「生命」や「自由」というきわめて重大な権利の与奪に結びついているからである。また、学説の対立の顕著化に加えて、今日、理論刑法学は益々緻密になり、細分化しており、他方、社会的紛争の複雑化によって刑法の果たす役割は増大し、刑法学への期待も高まっている。
この講義では、刑法典第一編総則に規定される犯罪成立要件全体に共通する項目のなかで基本的かつ必須であるテーマについて、その意義と問題点を学説・判例・立法例を紹介しつつ明らかにし、受講者の各自が体系的に刑法総論の輪郭をとらえることをねらいとする。
刑法総論の解釈学は非常に体系立てられた学問であり、各教科書の記述はその体系に沿って展開されている。そのため、学習においては、「刑法の基礎」→「構成要件論」→「違法論」→「責任論」→「未遂論」→「共犯論」→「罪数論」といったように段階的に知識を積み重ねていくことが肝要である。したがって、まずはじめに刑法の意義と機能、刑法の諸原則などを概観することを通して、受講生のそれぞれにおいて「刑法」あるいは「刑事法」というものを具体的にイメージできるようにし、その後、上述の「違法論」「責任論」「未遂論」等の様々な解釈上の重要問題へ、そして、「未遂」「共犯」「罪数」といったいわば犯罪論の応用問題へと進んでいく予定である。
授業では、時事問題なども随時折り込みながら進めていくが、大教室での講義であることから、一方通行の講義とならぬよう、こちらから受講生諸君に問いかけて回答を促したり、逆に、色々な質問もおおいに受けてそれに答えるといった具合に、双方向的で活発な、一緒に考える授業となるよう努めたい。
科目目的
この講義の目的は、受講生の各自において、刑法総論を全体に体系立てて理解することにある。したがって、授業では、刑法の解釈論における各学説・判例を概観するにとどまらず、それぞれの概念や、それらをめぐる議論の論点、ならびにその背後にある思想を明らかにし、あわせて、社会における紛争解決の手段としての刑法の役割とその限界、解釈の限界、立法論などを受講生と一緒に考えていきたい。
到達目標
授業においては、上記に掲げた科目目的のため、刑法総論における諸問題について考え、刑法上の問題の論点を見つけだし、どのように解決すべきかという「法的思考」いわゆるリーガルマインドの涵養を目指す。また、将来法曹を志すという場合においても、それに配慮した授業内容となっていることから、基礎的かつ重要な事項についての十分な理解を心がける。
授業計画と内容
1.〈刑法の基礎1〉刑法の意義・機能
-事後強盗致傷罪(窃盗犯人が被害者に暴行を加える罪)から刑事法をみる。
2.〈刑法の基礎2〉刑法理論史と新旧学派の争い
-AはBに殺人を唆したがBは断った。この事例で、学説の相違により殺人未遂罪と無罪とに結論が分かれる背景はどこにあるのか。
3.〈刑法の基礎3〉罪刑法定主義の意義と派生原理
-なぜ、情報を盗んでも窃盗にならないのか。患者の秘密を暴露しても、医者ではなく看護師なら処罰されないのはなぜか。
4.〈刑法の基礎4〉罪刑法定主義の派生原理-「交通秩序の維持」「淫行」という文言を内容とする刑罰規定は憲法に違反するか。
5.〈行為論・構成要件論1〉犯罪の意義と種類、行為論、構成要件論、犯罪主体、構成要件該当性
-「法人」は犯罪を行いうるか。犯罪の成立要件は何か。
6.〈行為論・構成要件論2〉真正・不真正不作為犯
-「何もしないこと」によってなぜ、殺人罪や放火罪や詐欺罪となるのか。
7.〈行為論・構成要件論3〉因果関係論
-AはBに軽い傷害を負わせたが、たまたまBは心臓に重篤な疾患を有していたので死亡したという場合、一般人がその罹患の事実を知り得たか否かは、Aの行為とBの死亡との間の因果関係の判断に影響を及ぼすか。殴られた被害者が病院で治療中、火災で死亡した場合、なぜ加害者は傷害致死罪で処罰されるのか。
8.〈行為論・構成要件論4〉因果関係論の諸問題、構成要件論のまとめ
-致死量の1/2の毒薬を入れると殺人既遂で、致死量の毒を入れると殺人未遂?
9.〈違法論1〉違法性の意義と本質、可罰的違法性
-泥酔者や子どもから暴行をうけた場合、これに対して正当防衛は許されないのか。隣の人の鉛筆の借用は窃盗か。
10.〈違法論2〉行為無価値、結果無価値をめぐる刑法学の対立
-賭博、近親相姦、売春、ポルノ等は刑法で規制すべきか。
11.〈違法論3〉正当行為(被害者の承諾、安楽死・尊厳死、治療行為)
-殺人、傷害、逮捕監禁、賭博が許される場合とは、いかなる場合か。『ヴェニスの商人』で、シャイロックの手にする証文の効力は?
12.〈違法論4〉正当防衛(過剰防衛、誤想防衛)
-リンゴ泥棒の子どもに向けて銃を発射した事例。強盗と誤認して暴行を加えた場合、罪とはならない?
13.〈違法論5〉緊急避難(過剰避難、誤想避難)
-海で漂流し一片の板にしがみついている漂流者がその板を頼ろうとする他の漂流者をつき放すことは許されるか。ミリオネット号事件を考える。
14.〈責任論1〉責任主義、責任の本質、責任能力、少年法、原因において自由な行為
-泥酔状態での行為は無罪か。なぜ、子どもの犯罪は宥恕され、子どもは刑法上厚く保護されるのか。
15.〈責任論2〉故意論、故意の意義と種類(概括的故意・未必の故意)
-フルスピードの車で人混みの中を走行した場合には殺人未遂か、無罪か。「何かやばいもの」という認識において覚せい剤所持罪は成立するか。
16.〈責任論3〉錯誤論(1)事実の錯誤(a)
-人違い殺人と手元違い殺人は、結果的に同じか、異なるか。
17.〈責任論4〉錯誤論(2)事実の錯誤(b)
-1個の殺人の故意で2人を殺害した場合、故意は1個しかないのに、なぜ、2個の殺人罪が成立するのか。死者を遺棄しても処罰されるのに、生死を誤認して親を遺棄した場合は、なぜ処罰されないのか。
18.〈責任論5〉錯誤論(3)法律の錯誤
-「たぬき・むじな」「もま・むささび」難事件とは何か。弁護士や警察の助言を信じて、許されていると思って行為したにもかかわらずなぜ犯罪となるのか。
19.〈責任論6〉過失論、過失の意義と種類(新過失論、新・新過失論)
-『ブラック・ジャック』が手術に失敗したら、やはり過失犯か。
20.〈未遂論1〉予備・未遂・既遂の区別、未遂の基準、予備罪の諸問題
-玄関前で強盗を思いとどまったときの方が、家の中で被害者に暴行・脅迫を加えた後に思い直して強盗をやめたときより、なぜに重く処罰されるのか。
21.〈未遂論2〉不能犯の意義と要件、未遂犯のまとめ
-砂糖を飲ませて人を殺そうとした場合、あるいは、空のピストルで人を撃った場合には処罰されるか。
22.〈未遂論3〉中止犯の意義と要件
-泥棒に入ったところ、あまりにわずかの現金しかなかったので、明日もう一度出直そうとした場合、中止犯は成立するか。1発の銃弾で殺害しようとした場合よりも、数発で殺害しようとした場合の方が、なぜ行為者に有利になるのか。
23.〈共犯論1〉共犯の意義、間接正犯
-医者が毒入り注射液を看護師に渡し、看護師はこれに気づいていながら注射したため患者は死亡した。いずれが殺人犯か。Aは、12歳の子どもに強いて窃盗を働かせた。正犯はどちらに成立するか。
24.〈共犯論2〉共同正犯
-強盗の共謀にもとづいて、Aは実行し、Bは見張りを行い、Cは自宅で待機した。この場合、なぜ、それぞれの罪責は同じくなるのか。過失の共同正犯は認められるか。
25.〈共犯論3〉狭義の共犯
-警察と打ち合わせの上でAはBに殺人を教唆したところ、Bは実行の着手と同時に逮捕されたという場合(おとり捜査)、Aの罪責はどうか。
26.〈共犯論4〉共犯の諸問題(共犯と身分)、共犯論のまとめ
-公務員である夫と共謀のうえ賄賂を収受した妻は有罪か。業務上の占有者と非占有者とが一緒に横領した場合、それぞれの罪責はどのようになるか。
27.〈共犯論5〉共犯の諸問題(不作為の共犯、共犯からの離脱)
-子どもが殺人を犯した際、かたわらにいてそれを止めなかった親の罪責はどうか。
28.〈罪数論・刑罰論〉犯罪の個数とその基準、一罪と数罪、刑罰の本質と種類
-1発の弾で2人を殺害した場合の犯罪の数は?
授業時間外の学修の内容
指定したテキストやレジュメを事前に読み込むこと
授業時間外の学修の内容(その他の内容等)
毎回授業前に次の学修内容につき教科書・参考書等で予習を行い、授業後には学修内容を復習すること。
授業時間外の学修に必要な時間数/週
・毎週1回の授業が半期(前期または後期)または通年で完結するもの。1週間あたり4時間の学修を基本とします。
・毎週2回の授業が半期(前期または後期)で完結するもの。1週間あたり8時間の学修を基本とします。
成績評価の方法・基準
種別 | 割合(%) | 評価基準 |
---|---|---|
期末試験(到達度確認) | 50 | 1.短答式問題 2.事例問題。事例問題について、「問題点の抽出」「規範の定立」「あてはめ」が出来ていること。 |
その他 | 50 | 毎回小テストを実施し、それをもって平常点・出席点とし、合格している場合には加点する。 |
成績評価の方法・基準(備考)
課題や試験のフィードバック方法
授業時間内で講評・解説の時間を設ける/その他
課題や試験のフィードバック方法(その他の内容等)
オフィスアワーを設けて学生の質問に答えるという形でフィードバックを行う。
アクティブ・ラーニングの実施内容
実施しない
アクティブ・ラーニングの実施内容(その他の内容等)
授業におけるICTの活用方法
実施しない
授業におけるICTの活用方法(その他の内容等)
実務経験のある教員による授業
いいえ
【実務経験有の場合】実務経験の内容
【実務経験有の場合】実務経験に関連する授業内容
テキスト・参考文献等
【テキスト】
授業では只木作成のPPTを使用する予定であるが、授業の一層の理解のためにも教科書は必須である。開講時に、いくつかの教科書を、その特徴を示しつつ紹介する予定であるので、受講者各人において自分の判断で自分にあった教科書を準備してほしい。授業の内容に沿ったテキストとしては只木誠『コンパクト刑法総論』(新世社、2022年)が初学者にとってわかりやすいが、なお、受験準備等ですでに教科書をもっているという場合には、それを活用することでかまわない。
【参考書】
井田・鈴木・髙橋・只木誠・曲田・安井著『刑法ポケット判例集』』(弘文堂、2019年)
只木編著『刑法演習ノート 刑法を楽しむ21問[第3版]』(弘文堂、2022年)
佐伯・橋爪編『刑法判例百選Ⅰ総論[第8版]』(有斐閣、2021年)
その他特記事項
■授業の工夫■
講生諸君と作り上げる活気ある授業とするため、また、授業内容の定着をはかるため、(可能な限り)双方向的な授業の実践を目指していきたい。受講生諸君には、主体的に授業へ参加してほしい。